98年3月の地平線報告会レポート




3月の報告会から(地平線通信221より転載)
オデン列島駆けある記
 新井由己
1998.3.27(金)/アジア会館

今回の報告者新井さんは、88年に中国、90年にタイを旅し、次はインドにカレーを食べに行くつもりだったが、数年が過ぎ去り、九州博多のおでん屋台に入って珍しいギョーザ巻に出会ったことからハマってしまい、パソコン通信上におでん臨時会議室を開設、全国から届くこだわりのおでん情報に触発されて、おでんのネタを食べ歩く旅に出た。

全行程10335Km、106日間のコースが書き込まれた日本地図を指し示しながら綿密なおでんネタ分布調査の報告が行われた。移動手段は原付バイク。調査地232ヶ所、調査スーパー・市場数406ヶ所、おでんを食べた回数103回というから、かなりのハードスケジュールといえる。

まず駅周辺の観光案内所で情報収集、大きなスーパーにてネタ調査をするが、けむたがられて相当苦労したようだ。でもスーパーやコンビニに入れば、概ねその土地のネタの傾向が判ってしまうのは、さすがに巨大流通産業の経営マーケティングの周到さを感じる。

夜はおでん専門店や居酒屋にて食べまくり。寝床は、パソコン通信で知り合った方のお宅に泊めてもらったこともあったが、大抵は公園や軒下、橋の下、無人駅構内等々。酔っ払いにからまれたり、警官に職務質問されたり、寒いおでんの季節に一夜を過ごすだけでも相当のエネルギーを費やしたようだ。

旅の詳細情報は、ニッカド電池を太陽電池で充電しつつ、携帯ワープロで逐一パソコン通信にアップされ、その総量は400字原稿用紙700枚分にも及んだ。つまり、新井さんの旅は、おでんで結ばれた参加者70人余に「実況報告として共有されていた」ことになる。これは、探検の新たな方法論を提示してくれているような気がした。

新井さんの語りは多分にアカデミックであり、何故その土地にこのネタが食べられているのかを、歴史的民俗的背景をふまえたうえで解説してくれた。詳細はこの秋に凱風社から出版される予定の著書に譲るが、いつのまにか日本地図は書き込みだらけになり、後半におでんのスライドを見ていたら、腹はもちろん減るのだが、なんだか無性に喉が乾いてきた。「喉が乾く」というのがおでん食文化の「ミソ=キーポイント」かもしれない。

近い将来、新井さんはインド料理の南北の境界線をあぶりだす旅に出るという。彼の緻密な調査力が、あのインドという怪物をどのように串刺しにして見せてくれるのか、実に楽しみだ。[法大探検部OB・インド食文化研究家 浅野哲哉]



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