2000年2月の地平線報告会レポート


●地平線通信247より

報告会レポート・247
キミはヤギ派かヒツジ派か?!
江本嘉伸・賀曽利隆・丸山純
2000.5.26(金) アジア会館

▼スライドをみているだけで、おなかがいっぱいになってくる報告会だった。今回は普段の報告会スタイルから趣向を凝らし、3人に登場してもらった。それぞれの地域におけるヤギ・ヒツジ事情がスライドをみながら好きなように語られた。

▼トップバッターは丸山純さん。丸山さんの通うパキスタンの山奥、カフィリスタン族が家畜にしているヤギはとても神聖な存在。ほとんどが男たちによって世話されている。パキスタンといえばイスラムの国だが、カフィリスタンはちがう宗教をもっている。彼らが唱える牧畜は信仰の上に成り立っている。神にいけにえをささげたり、人々が生きていく上でとても大事にされていることが印象的だった。カフィリスタン族は言う、ヤギの肝臓が一番美味しいと。客人にその一番いいところがまず出される。丸山さんも何度も生の肝臓をもてなされた。生あたたかく食べるのにきついが、もてなしの心がまだまだ生きている。

▼2番目は江本嘉伸さん。先月に続いての登場。モンゴルのヤギとヒツジは、ひとくちで言えばヤギは勇敢で決断力に優れている。遊牧の群をぐいぐい引っぱっていく。その点ヒツジはおっとりして臆病だが、従順で遊牧民からは一番可愛がられている。江本さんもまた客人に最高のもてなしである「ヤマニ・ボードック」という料理をスライドでみせてくれた。ヤギの尻部を切って内蔵をとり出し、袋状になったヤギの皮袋の中に肉・野菜、熱く焼けた石をつめ込み、石焼き状態にして出来上がりを待つ。このうまいこと、うまいこと、サイコー!!

▼3番目に賀曽利隆さん。アフリカ・サハラ、ホロロ族・トワレグ族のヤギ・ヒツジをみせてくれた。外見はほとんど同じだが、鼻のあたりの違いで見分けるそうだ。鼻筋がへこんでいるのがヤギ、ふっくらしているのがヒツジだそう。そしてどっちでも派の賀曽利さんは、オートバイによるヤギ肉・羊肉たべはしり世界一周をスライドで披露してくれた。このへんで会場はもう満腹状態!!

▼休憩のあとは白根全さんの飛び入り南米ヤギ・ヒツジの話。その後は報告者の話もそっちのけで、馬乗り片山忍さんがもってきてくれた馬肉、江本さんからみなさんにとモンゴル土産の羊肉のローストがくばられた。江本さん自身が一人一人に回って羊肉を一切れずつカットしてくれたのも嬉しかった。

▼パキスタン・モンゴル・サハラの3地域のヤギとヒツジの話は、味くらべの競演となったところもある。僕自身、ヤギ肉は沖縄の波照間島で食べたことがあるが、獣臭さが口に残った思い出がある。それはそれでよかったが、やはり北海道を自転車で旅をして野宿しながら食べたジンギスカンの美味はわすれられない。また聖書にもこうある。『主は私の羊飼い。私は、乏しいことがありません。主は私をみどりの牧場に伏させ、いこいの水のほとりに伴われます…』クリスチャンでもある僕は、ぜったいヒツジ派です。[瀬口聡]



《ヤギとヒツジ》 −−報告会翌日に−−

◆昨夜のヤギとヒツジをテーマにした報告会はおもしろかった。“ヤギ派”丸山さんのパキスタン北部、“ヒツジ派”江本さんのモンゴルと、地域を特定してのヤギ&ヒツジの話には、教えられることが多かった。そのようなお二人のこだわりのヤギとヒツジ論のあとを受けた“ヤギ&ヒツジ・どっちでもいい派”カソリの世界を舞台にしたヤギとヒツジにまつわる話というのは、きわめてやりやすいものになった。

◆それにしてもぼくは今までに、世界中でヤギ・ヒツジ肉を食べてきたが、ヤギとヒツジをあいまいにしてきた感が強い。たとえば原稿を書くときも、「ヤギやヒツジ」という書き方をすることが多かった。ところが丸山さん、江本さんのこだわりの話を聞いていると、「おー、そうか、ヤギとヒツジはそこまで性格が違うのか」といった驚きを感じるのだった。これからは、世界をあちこち旅するなかで、間違いなく、もっとヤギとヒツジの違いをしっかり認識して見ていく、または食べていくことができるなという“手応え”のようなものを昨夜は持つことができた。それと、サハラからアラビア半島、イラン、アフガン、パキスタン、タクラマカン、モンゴルとつづく広大な乾燥地帯での牧畜の定点観察のような旅をしたい!という思いにとらわれた。丸山さん、江本さんの話を聞いていると、ヤギ、ヒツジを主とする牧畜の仕方の違いにおおいに興味をそそられたからだ。今回の“ヤギとヒツジ”といったようなテーマでの報告会ができたということは、これからの報告会の新たなる道筋を切り開いたかのような印象をも持った。[賀曽利隆]


◆モンゴルのヒツジはでかくてうまそう。アフリカのヒツジはなるほどヤギそっくりで毛がなく見分けがつかない……ヤギ派の私も、ヒツジにたいする認識を新たにしました。後半登場した羊肉と馬肉腸詰にすっかり会場全体が席巻されて、予定していた“知的ディスカッション”が消し飛んでしまったのは残念だけど、ともかく楽しく盛り上がれて、地平線ならではのひとときを過ごせたと思います。ありがとうございました。[丸山純]


◆すんません。後半、とっておきの肉持ち出してアカデミックな報告会の雰囲気を乱してしまって。でも、うまかったよねえ。要は、羊とヤギは違うんだ、ということわかれば十分です。[江本嘉伸]


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