1996年2月の地平線通信



■2月の地平線通信196号のフロント(1ページ目にある巻頭記事)

 こんにちは。今月も伝えたいことが山ほどです。

 最初に7月13日(土)の「地平線報告会200回記念大集会」の場所が正式に決まった。

 東京・青山の国連大学わきに昨年完成した「東京ウィメンズプラザ」ホール。7月13日の午前9時から21時まで全日借りることができた。準備と後片付けに時間がかかるので「開場午前10時、終了午後8時」ぐらいになる。補助席を入れて300席、スクリーンも大きく、地平線会議にふさわしいイベントができそう。

 問題はその内容だが、何回か話し合いをしているうちに出てきていること。

 まず、200人の報告者をスライドなどで面白く紹介しながら、その何人か何十人かにテーマを設定して思いのたけを語ってもらう。これをどうやるか目下、三輪主彦を中心に研究中。卒倒しそうに面白いものになるかもしれない。

 次に、行動する女性たちを主体にしたユニークなプログラムをやりたい。たとえば、極地の高野孝子、自転車の熊沢正子、バイクの滝野沢優子、山の田部井淳子、の諸氏(無論、この人たちだけではないが)には当日日本にいてほしい、と頼んである。内容はこれから皆と相談しつつ決めたいがこの部門は女性にまかせる。「舞台と客席を分けすぎないで、皆が参加できるようなものを」と、これは「ひそかなる地平線ファン」の田部井さんの意見であった。

 向後元彦、森田靖郎、岡村隆、恵谷治以下地平線会議創設メンバーに18年前と今を比較しつつ、ありたっけしゃべってもらいたいという提案も具体化しつつある。皆、それぞれの分野で輝いているこの時期に本音で冒険や旅や「国際化」ということについて言い放ってほしい、という思いがある。

 そして、午前中のプログラム第1弾として当面はっきり決まったことは、何あろう、「冒険者と犬」という、美しくも胸のときめくテーマだ。ここから何か飛び出すか言い当てられる者は絶対にいないであろう。7月13日までシミツである。これと関連して、地平線通信をより深い内容にするために今号から「地球犬体験」というリレー・コラムを開始した。外地に限らず、国内でもいい、地平線らしい犬話をどんどん投稿されよ。

 さて、前号で提案した「1万円カンパ」について小生がどんなに感激したかを報告したい。今号で詳しく書くつもりだったのに、心意気に感じて、すぐに1万円を送ってくれたり、持ってきてくれたりする人々がいたのだ。感謝感謝感謝。こういう活動をしていてこのようにすぐ呼応してくれる人がいてくれることは何とありがたいことだろうか。

 で、正式にお願い。
 「地平線報告会200回記念イベント」のために、1万円カンパを広く募ります。カンパの具体的使用目的は、会場経費(入場料は一応1000円ぐらいと考えていますが、関連の経費として)、郵便経費、印刷代、スライド制作費、通信費、パンフレット制作費、大集会記録経費、ビデオなどテープ代その他です。

 宛て先は
1 郵便振替 「00100-5-115188 地平線会議」へ。(手数料60円かかると思う)
2 次の住所にKAKITOMEでなく普通郵便で送る。
  〒160 新宿区荒木町3-23-303 江本嘉伸
  〒173 板橋区大山町33-6    三輪主彦

 このカンパの会計報告は厳密に行い、後日皆さんに報告します。なお、協力者の名をこの通信に記録し、領収代わりとさせて頂きます。

〔2月10日現在 1万円カンパに協力してくれた人〕
 佐藤安紀子、向後元彦 向後紀代美 北村節子 賀曽利隆 賀曽利洋子 河田真知子
山崎禅雄 西山昭宣 山田高司 吉岡嶺二 三輪倫子 海宝道義 香川澄雄

 ともかく、面白くやろう。            (江本嘉伸)



■リレー連載・地球“犬”体験……1

カラーシャ族の耳なし犬   丸山純

 小学生のとき、仔犬を飼っていたことがある。一見すると父親似の柴犬なのに、足と尻尾の先だけが母親のスピッツゆずりで真っ白の、かわいいヤツたった。でも、ある日学校から帰ってみたら、いつも飛びかかるように迎えてくれる彼女の姿が、どこにも見えない。必死になって探しまわっているうちに、コンクリート長屋で飼っているのではかえってかわいそうだと、母が私に内緒で知り合いに譲ってしまったことがわかった。その晩はひたすら泣き明かした記憶がある。そのせいか、犬のそばに行くと、どうしても頭をなでてやりたくなって、思わず手を伸ばしてしまう。

 ところが、カラーシャ族の村に行って、手にしたチャパティの切れ端をやろうと、寄ってきた痩せ犬に見せたとたん、いきなりがぶりと手首まで咬みつかれた。流れ出る自分の血にもびっくりしたが、すかさずでっかい石が飛んできて、ドスンと鈍い音をたててヤツの腹に当たったのには、もっと驚いた。そばにいた飼い主の少年が、渾身の力を込めて投げ付けたのだ。ギャイーンと苦しそうな悲鳴をあげ、尻尾を下げてよろよろと逃げていく。本多勝一さんの『カナダエスキモー』などで、労働犬によけいな情けは無用ということは知っていたはずなのに、これはやっぱりショックだった。

 その後も、犬に襲われそうになって、あわやという場面が何度もあった。どれも、牧童犬がいるのを知らずに、家畜に近寄ろうとしたためである。カラーシャは、仔犬がちょっと大きくなると、互いに喧嘩をしても負けないように、急所である耳を切り取ってしまう。そういう耳なし犬が、恐ろしい声で吠えながら、風のように飛んでくるのだ。下手をすると、喉を喰いちぎられるという。いくら犬好きという自負があっても、こうなっては一目散に逃げるしかない。

 どうにも追いつめられて、私も横っ腹に石を思いっきり命中させたことがある。このときはさらにもう1頭が飛びかかってきたので、至近距離から眉間にぶつけてやった。私が両手利きでなければ危なかったほどだが、なんとも後味の悪い体験で、あのときの血と鈍い音と悲鳴は忘れられない。以後この2頭は、私に本気で挑んでくることはなくなった。

 標高4000メートルを越える高地にある夏の放牧地では、食料を村から荷揚げすることになるため、犬たちは極度に飢えている。朝、急斜面を慎重に下って、小屋から少し離れた草むらに出かけた。ここなら、人も家畜もやってこない。ところが、しゃがみこんだとたん、唸り声がする。4〜5頭の犬がいつのまにか寄ってきて、互いに牽制しながら、私の雲古を狙っていたのだ。足元の小石を投げつけたが、しゃがんでいるため力も入らず、コントロールも定まらない。飢えがひどいためか、犬たちは小石が当たったくらいではまったくひるまず、ただひらすらワンワン吠えまくり、押しのけあう。そして、私が立ち上がったあと、ものすごい勢いで喧嘩になった。さすがに、こいつらをなでてやろうという気持ちにはとうていなれず、犬好き失格を思い知らされたものだ。

 そんな体験をいくら重ねても、やっぱり犬を見ると近寄っていってしまうのは、どうしてだろうか。



■今月の地平線報告会の案内(絵と文:長野亮之介/イラストのなかにある手書き文字)

2/27
TUESDAY
6:30〜9:00 P.M.
アジア会館(03-3402-6111)
\500



チャリンコ族はかくて
丘を越えたのだ


●2年がかりの日本一周を描いた処女作から8年。クマさんこと熊沢正子さんのチャリンコシリーズ第3作目が昨年12月に出版されました。
 旅の相棒ヒデとの1年に渡る台湾・韓国・ヨーロッパ自転車放浪顛末記。タイトルは『チャリンコ族は丘を越える』です。
 鋭い観察力は相変わらずですが、ヒデの目を通して描かれるクマさん自身の姿が生き生きとしていて、異文化の中で戸惑い、迷い、時には自信を取り戻しながら、激動の世紀末に自分に正直に生きる道を模索する2人の珍道中が活写されています。
 92年6月から93年7月までの旅からすでに2年経っていますが、心の旅はまだ終わったばかりの熊沢さんに今月はおいで頂き、この旅をモチーフに「人はなぜ旅に出るのか」をテーマに話して頂く予定です。



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