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■6月の地平線通信・211号のフロント(1ページ目にある巻頭記事)
●去年の今頃といえば、例のイベントの準備で、スタッフ参加者一同、燃えていましたよね。あのギンギラギンの初夏が懐かしい、今日この頃です。みなさん、お元気ですか。
●一年前のことを思い出しながら、一冊の本を読み直してみました。伊井直行さんの『雷山からの下山』という小説です。イベントとともに完成した『地平線の旅人たち』の欄外アンケート、「最近おもしろく読んだ本」のところに、私が挙げた本がこれでした。バブル全盛期の東京近郊、かつて「雷山」と呼ばれた小山の上に切り開かれた新興住宅地に立つ、一見洒落たアパートの、大家さんと賃貸人をめぐる、現代の寓話ともいうべき物語です。中年の堅実な技術系サラリーマンが、親から受け継いだ土地にアパートを建てて数年。有名企業に勤めているからと安心して入居させた店子の青年が、どうやら会社を辞めたらしいとわかって、心配になってきます。一方、フリーター暮らしの不安定さに耐えきれなくなった青年は、再就職のための活動と、身の程にあった家賃のアパート探しを始めますが、なかなか思うようには進みません。そこに「雷山」の過去来歴が、この地で育った大家さんの少年時代、青年時代の思い出を交えて、オーバーラップしていくのです。
●淡々とした語り口で描かれた、人間同士のスレ違いの切なさ。主人公たちが「雷山」を上ったり下ったりするときの、息切れや動悸、めまい、倦怠感が伝わってくるほどの、地面感覚のリアルさ。そして、その地面の歴史的背景説明の、呆気ないくらい簡潔でいて説得力のある物語性。−−うーん、やっぱり、お見事。私はこのような作品を、勝手に「人文地理的文学」と呼び、地球描写の一方法として注目しています。
●アンケートへの回答として、私が敢えてこの本を選んだのには、もちろん、ちょうどその頃読んだという時間的な事実関係もあったのですが、「地平線会議とはこんな集団」という先入観にとらわれた下心も働いていました。「他の人たちはきっと、『いかにも』というようなルポルタージュや探検記を挙げてくるだろう(実際はそうでもなかった)。だったら、ちょっと意表をついた本を挙げて、『これが私の考える地平線的なもの』と主張してやれ。『非日常的冒険』VS『日常に潜む叙事詩の発見』だ!」ってね。
●ところが、あのイベントの日、初めて『地平線の……』を手にして自分のページをめくった私はコケました。『雪山からの下山』となっていたんだな、これが。関心のある方は167ページをご覧ください。よくある誤植といえばそれまでだけど(校正がファックスで届いたため、字が潰れていて、私も見落としてしまったらしいのです)、なんか、実に、こちらの思惑を裏切る形の間違え方じゃないですか。これじゃ、山岳ノンフィクションだよぅ……。
●しかし、「冒険」が非日常的と決めつけるなんて、私も甘かったと思います。先日、地平線でおなじみの、さる女性と、新宿某所でタイ料理をつつきながらビールをしこたま飲んだのですが、後日聞いた、駅で別れてからの話がすごかった。「終点まで寝ていっちゃったのよ。終電だったのに」「じゃあ、タクシー代が大変でしたね」「ううん、それはないの」「へ?」「ヒッチで帰ったから。信号待ちしている車のフロントガラスを叩いていって、3台目で乗せてくれたの。その学生が、いい男でねぇ。旅の話をしたら喜ぶから、『あなた、私、本も書いているのよぉ』って、宣伝しておいたワ」−−この通信が出る頃、彼女は93カ国目をめざす旅の途中にいることでしょう。
●ところで、最後になって恐縮ですが、河野兵市さん、念願の北極点踏破、そして、雪山ならぬ氷原からの無事ご帰還、おめでとうございました。いつかきっと、地面(氷面?)感覚にあふれる報告をしてくださることと、期待しております。[熊沢正子]
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◆95年7月、平均傾斜60度以上、ところどころに垂直の岩壁、氷壁帯を持つナンガ・パルバット(8125メートル)北面新ルートが千葉工業大学登山隊によって登られた。そのときの隊長・坂井広志さんは、遠征中の模様をスライドにビデオをまじえ1時間半にわたる映像にまとめあげた。
◆着々と上部にルートをのばしながらもときおり下方ベース・キャンプをふり返る。そのたびにベース・キャンプがだんだん小さくなってゆく。確実に高度を勝ちとっているさまが、映像のなかで写しだされている。垂直の氷壁帯を登るシーンでは自らビデオをかつぎ、片腕で体をささえ、もう片方の腕で撮影する。これはちょうどざっくを背負ったまま片腕で鉄棒にぶらさがりながらビデオを回しているようなもの。酸素の希薄な高所でこれだけこまめな撮影には正直いっておそれいった。また途中でバランスをくずしビデオを落とすところなど、臨場感あふれるシーンもいくつか登場した。
◆移り変わる映像とともに場内にはオペラやシャンソンなどが流れた。その音楽は立体的な映像のなかで、起承転結のよりはっきりしたものを作りだした。音楽を担当したのは紀子夫人。それぞれのシーンに全部で8つの曲を組み入れて、遠征隊の家族や待つ人達のためにも遠征の模様を味わってもらおうと構成されたそうだ。
◆ナンガ・パルバットといえば世界第9位の高峰。パキスタンのカシミール地方にそびえ立つこの山は、どの角度から見ても急峻な氷壁や岩壁におおわれている。その登頂はいずれのルートからも困難なものにしている、いわば“玄人好み”の山である。
◆学生時代より山岳部で活躍されていた坂井さん、厳冬季の北海道・利尻山をはじめ81年にはパキスタンのカンジュット・サール西壁新ルートから全員登頂と経験を積み重ねてきた。今回の遠征の準備をはじめたのは10年前から。「もし遠征メンバーが集まらなくても、私ひとりでも行きました」とこの山にかけた熱い情熱がひしひしと伝わってきた。
◆海外の山といえば、とかくタイトルだけの一般大衆受けするようなものがもてはやされているが、こうした未知のルートからの挑戦こそ、登山の真髄に触れるものではないだろうか。[田中幹也]
(略)ある日、留守番電話に関野さん本人から「土曜日は札幌のどこどこにいます」と言う連絡があり、…関野さんと奥さん、娘さん、北海道の友人の方々が集まっていたところに同席させていただきました。出会ってまだ10日しか経っていない僕だけ場違いでしたが、関野さん本人や仲間の方からグレートジャーニーの色々な話を聞くことができ、一人で感動しておりました。
今回の一件で関野さんの人柄というか凄さを知りました。講演者が僕のように講演会で知り合っただけの人間にわざわざ連絡をくれる事なんて、そうないと思います。まして関野さんのような忙しい人が連絡をくれるとは思ってもいませんでした。帰り際に関野さんの友人にその事を話すと、「関野さんはルンペンの前でも天皇の前でも同じ態度だよ」と言っていたのが印象的でした。人を大事にする関野さんの姿勢が今までの活躍を支えてきたんですね。関野さんって凄い人ですね(グレートジャーニーだけでも凄いと思っていましたが……)。機会があればまたお会いしたい人です。
写真展「地平線発」 いよいよ開催!! |
「地平線WEBギャラリー・SPICE!」
展示作品募集中!
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●写真展「地平線発」の開催がいよいよ間近に迫ってきましたが、ほんとうに実施できるのかどうか、なかなかメドが立たなくて、40人ぐらいにしか声をかけらなかったのが(つまり、江本さんが「やっぱり今年は無理だった、ごめん」と頭を下げてすむ範囲)、おおいに心残りです。この地平線通信で広く呼びかけることができれば、もっともっと大勢の行動者に参加していただけて、前代未聞、空前絶後のスケールの大イベントになったことでしょう。でも、会場探しと経費の捻出に奔走させられ、10年ぐらい先にようやく実現、という事態になったかもしれませんが。
●そこで、経費をかけず、手間もそこそこで、なんとかみなさんの写真を集めて展示することができないかと知恵をしぼった結果、インターネット上で写真展を開催しようじゃないかという話がまとまりました。名づけて「地平線WEBギャラリー」。
●「WEB」というのは、ご存じWorld Wide Web(世界中に張り巡らされた網の目)からとっています。インターネットにアクセスできる人ならだれでも覗ける、オープンな場をめざします(当面は日本語のみで運営)。
●愛称は「SPICE!」。最後に「!」が付いていることからもおわかりのように、SPICEは動詞で、「ぴりりとスパイスを利かせよう!」という、この「WEBギャラリー」のスローガンみたいなものです。インターネットは視覚と聴覚を中心としたメディアですが、そこに嗅覚と味覚を刺激する香辛料をあえて持ち出したのが、いかにも地平線らしいところ(と自画自賛)。
●写真展「地平線発」をサポートするために、7月初旬には“開館”にこぎつけようと、現在サイトの選定や準備を進めている最中ですが、以下のような次第で展示作品を大々的に募集します。「地平線発」に出展するチャンスがなかった人はもちろん、こっちの写真を出せばよかったなぁと後悔している人も、ぜひぜひお気に入りの1枚(でも何枚でも)をお寄せください。
●申し込み・問い合わせは「地平線WEBギャラリー開設準備室」(〒167 東京都杉並区南荻窪2-38-13-205 丸山方/03-5370-7451 faxも同番号/PEG00430@niftyserve.or.jp)まで。[丸山純]
◆先月号でお伝えしたとおり、ニフティのホームパーティとして活動してきた「地平線HARAPPA」が、パティオに引っ越しました。パスワードが変更になっていますので、参加を希望される方は丸山(PEG00430)までお問い合わせください。6月いっぱいで、旧ホームパーティは閉鎖します。また武田(TAB00165)が開設していた「地平線データ工房」も6月末でいちおう閉鎖し、当面は広くなったHARAPPAの一角で続けていくことになりました。長い間のご利用、ありがとうございました。
南アメリカ音楽紀行 エル・コンドル & デュエット・エスペランサ |
アンデス音楽の楽器とパラグアイのアルパを組み合わせたちょっと珍しいコンサートです。ケーナ、サンポーニャ等の笛の音、ギター、チャランゴ、クアトロのリズム、ボンボやパーカッションの響き、アルパの優雅な音色…南アメリカの音楽の旅をお楽しみください。
エル・コンドル:長岡竜介/寺沢睦/草薙雅介/岡田浩安/依田真理子
デュエット・エスペランサ:ガブリエル・ゴンザレス/日下部由美
平成9年7月24日(木)
午後7時30分開演(午後7時開場)
大森ベルポート アトリウム1F
(JR大森駅・京浜急行大森海岸駅下車)
前売り券\2,000/当日券\2,500
申し込み及び問い合わせ先 長岡竜介音楽事務所 TEL&FAX 03-3709-1298
佐藤安紀子、向後元彦、向後紀代美、北村節子、賀曽利隆、賀曽利洋子、河田真智子、山崎禅雄、西山昭宜、山田高司、吉岡嶺二、三輪倫子、海宝道義、香川澄推、中山嘉太郎、大沢茂男、久野暢郎、高野久恵、金井重、江口浩寿、田部井淳子、森井祐介、武石礼司、梅沢政弘、岸本佳則、遊友裕、滝野沢優子、武田美佳、武田力、村田忠彦、水谷任子、西村邦雄、保木由佳、飯野昭司、小川正人、藤原謙二、石川秀樹、舟本和子、田中雄次郎、久保田賢司、在田加代子、相川八重、相川和加子、高野孝子、江本嘉伸、江本くるみ、丸山純、北川文夫、小島淳一、埜口保男、宮寺修一、杉田晴美、張替純二、森田昌弘、加世田光子、森田洋、坂下哲之、花崎洋、河村安彦、土屋守、中村理英、池本元光、菊地敏之、金守達也、野々山富雄、松本栄一、神長幹雄、花岡正明、岩淵清、井口亘、河野昌也、古橋稔、桜井紀子、長谷川絹子、森國興、長迫幸成、本庄健男、岡田典子、斉藤晃、斉藤則子、尾浜良太、那須美智、佐々木眞紀子、長房宏治、山田まり子、出口昌哉、九里徳泰、川島好子、若木美枝、池田朋之、柴田美佳子、長田憲二、松田仁志、岸本実千代、今里好美、野々山桂、鹿内善三、坂本勉、難波賢一、中川淳、小松尾幹愛、西山佳子、野地耕治、島村智子、近山雅人、久島弘、山本千夏、斉藤政喜、森田友江、井川等視、山田佳範(敬称略)
6/27 しかしここは、放射能で高濃度に汚染された死の村だったのです。チェルノブイリ4号炉から直線で170km。86年4月26日までは、300所帯が住んでいました。 こうした汚染地帯に、死を覚悟して住み続ける人々は、サマショール(わがまま)と呼ばれています。91年からチェルノブイリに通い、サマショールの人たちの生きざまに心を動かされていた本橋さんは、ドヂチ村を舞台に、映画を作ることを決めます。7家族で唯一、小さな子供のいるウラジミール家を中心に、あるはずのない村の、美しい四季を追いました。現在編集中の映画のタイトルは「ナージャの村」。ナージャはウラジミール家の末っ子です。 今月は本橋さんに、この映画の背景を語って頂きます。 |
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