2003年12月の地平線通信



■12月の地平線通信・289号のフロント(1ページ目にある巻頭記事)

地平線通信表紙なさ〜ん、お元気ですか! あっというまに2003年も12月になってしまいましたが、ぼくは今年は日本の林道をバイクで走りまくりました。東北を中心に全部で200本余の林道を走りましたよ。それとバイクでの「峠越え」をはじめて33年になりますが、今年の8月には1500峠を達成しました。北海道の松山峠(美深町・雄武町境)がその記念すべき峠でした。峠近くの稜線上には日本最北の高層湿原の松山湿原があります。次の目標は2000峠です。

◆海外は7月には「アラスカ縦断 3000キロ」、9月には「中国・北朝鮮国境2600キロ」と走ってきました。これらはともに「カソリと走ろう!」のバイクツアーで、ぼくは今、参加者のみなさん方と一緒に走るバイクツアーに大変なおもしろさを感じています。地平線会議にも大きな影響を与えた「アムカス」(宮本千晴さんや向後元彦さん、三輪主彦さん、伊藤幸司さん、岡村隆さんら地平線会議発足時の主要メンバーの大半はアムカスでした)の「探検学校」に相通じるものがあるなと一人、うなずいています。

◆「アラスカ縦断」の出発点はアンカレッジ。北極海を目指してアラスカを北上しましたが快晴の青空を背にした北アメリカの最高峰、マッキンンリー山の雪が目にしみるようでした。北極圏に突入し、最北の大陸分水嶺のブルックス山脈を越えると、一望千里の大ツンドラ地帯。北緯70 度線を越えてプルドーベイに到着すると、長い砂浜のつづく北極海に飛び込み、全身で極北の世界を感じ取るのでした。

◆「中国・北朝鮮国境2600キロ」は中国・東北地方(旧満州)の瀋陽を出発点にしましたが、鴨緑江下流の丹東から鴨緑江沿いに走り、通化、白河を経由し、中国・北朝鮮国境の長白山(朝鮮名 白頭山)の山頂に立ちました。ここは中国東北地方のみなさん、朝鮮半島のみなさんにとっての聖山なのです。すばらしい風景で、身を切られるような冷たい風に吹かれながら、眼下のカルデラ湖の天池を一望しました。

◆長白山からは延辺朝鮮族自治州の中心、延吉へ。そこからは図們、琿春と通り、中国、北朝鮮、ロシア3国国境の防川に向かいました。展望台の3国国境の風景には大感動! 足下を図們江(朝鮮名 豆満江)が流れ、そこには北朝鮮とロシアを結ぶ鉄道の鉄橋がかかっています。北朝鮮側の豆満江駅、ロシア側のハサン駅がはっきり見えます。図們江の河口の向こうに広がる日本海がキラキラ光り輝いていました。

◆ハサン駅の向こうにはゆるやかな山が見えますが、その向こうが日本海のザルビノ港。これは報告会でも話したことですが、2001年の「ユーラシア大陸横断」の第1歩がこのロシアのザルビノ港でした。ぼくはザルビノ港に降り立ったとき、すぐ近くのロシア、中国、北朝鮮の3国国境には猛烈に心を揺り動かされ、「いつの日か、絶対に3国国境に立ってやる!」とそのときに思ったものです。あれからわずか1年でその日がやってくるとは…。防川では何か、夢でも見ているような気分でした。

◆2004年の最後は「目指せ! アグラス岬」です。出発点はナミビアの首都ウインドフック。ナミブ砂漠の大砂丘群(世界で一番高い砂丘はこの砂漠にあります)を走り抜け、世界にここだけにしかない植物のウエルウイッチア(日本名 奇想天外)やケープクロスの世界最大のアザラシの大コロニ−(10万頭以上のアザラシが生息しています)を見、アメリカのグランドキャニオンに次ぐ世界第2位の大峡谷、フィッシュリバーキャニオンを一望し、そこに湧く温泉に入ってきます。国境のオレンジ川を渡って南アフリカに入り、アフリカ大陸最南端のアグラス岬を目指すのです。インド洋と大西洋を分けるアグラス岬の到着は2003年の大晦日を予定しています。名産のケープワインでアグラス岬到着を祝おうと、今から胸をワクワクさせています。2004年の新年もこの岬で迎えます。最後に喜望峰に立ち、ケープタウンをゴールにします。ということで、ぼくにとっては30年ぶりという南部アフリカを走ってきます。

◆みなさ〜ん、2004年には地平線会議の記念すべき第300回目の報告会がおこなわれます。ひとつの大きな区切り。おおいに地平線会議を盛り上げていこうではないですか![賀曽利 隆]



先月の報告会から(報告会レポート・291)
宙(そら)からみたマッケンジー河
多胡光純
2003.11.28(金) 新宿榎町地域センター

◆高い所から見た景色に感動することは誰にでも経験があると思う。私もそういう高みからの風景が好きだ。旅の最中、小高い場所を見つけると登りたくなり、同じ風景なのにこんなにも違う事に気がつく。もっと上がればもっと感動する景色がひろがるのだろうが、私の力では限界がある。でも、限界を超えてふわり、空まで飛んでしまったのが今回の報告者、多胡光純(たご・てるよし)さんだ。

◆報告会場には、ずしん、とでっかい扇風機のようなものが、鎮座していた。なんと、多胡さんが行動の手段とした「モーター・パラグライダー」そのものだった。重量27キロ、という。

◆極北の地、カナダ・マッケンジー川。そこに通ううち、多胡さんは、強い思いにかられた。「ここで、自分が立っている場所を空から見て、写真を撮りたい」

◆だが、極北はどこも平坦で山地が少ない。いろいろ考え抜いた末に到達した答えが、モーター・パラグライダーだった。背中にエンジンを背負った人間とパラグライダーの組み合わせで、数メートルの低空から2000メートル高度まで舞い上がれる。

◆さらに言えば、川での移動手段はカヤック。モーター・パラグライダーはカヤックに積む事ができるサイズまでコンパクトになる。

◆自分で2003年5月という出発日を決め、それまで集中して練習する。期間は9ヶ月。一人前になって飛べるまで1年はかかるというのだから、練習期間を短縮するのは根性ということなのか。でも、多胡さんに空を教えた師匠はちゃんと釘をさしている。空の世界は根性ではない、理論の世界だ。理論にあった行動をとらないと危険だ、と(私の多胡さんへの印象は、根性よりはどちらかと言えば理論の人だと感じる)。

◆マッケンジー川での最初のフライト。キャンプ地に着き、フライト準備もできた、いつでも飛べる。でもすぐに飛べなかった。離陸ポイントは狭い河原。周囲120キロは、人は住んでいない。川幅は平均4キロ。川の両側はどこまでも続く森。もし失敗して川に落ちればそのまま下流に流されてしまうだろう。森に降りられたとしても、対岸だったら、キャンプ地に戻ってくる方法がない‥。

◆さんざん練習してきたのに、現地に来てみたら、なんと3日間はまったく飛べなかった。そして4日目、ようやく初フライト、そして撮影。念願の「エア・フォトグラファー」になれた瞬間だった。

◆それからは、カヤックで前進しながらキャンプし、マッケンジー川上空で幾度ものフライトを実施。回数を重ね、慣れてくると薄暮時のフライトもこなした。日が沈んでしまい、真っ暗になったらキャンプ地を見つけられず、帰ってこられないのではないかと心配になるが、目印に大きなたき火をつけてあるし、時間も計算してあります、と平然と言われた。経験を重ねた自信が、そこにあった。

◆スクリーンに映し出される、天空からの極北の風景。さまざまな写真の中でも、足下を川が横切り、視線を上げていくとずっと森が続き、遠くにかすんだ地平線が見えるカット、これが平凡そうだけどとても気にっています、と何度も言う。いやいや、平凡なんて、とんでもない。こんな広がりのある景色は、地上では見る事ができない。どれも飛んだからこそ撮れた素晴らしい写真だ、と、こちらは思う。

◆多胡さんは「人の気配のない空間」を求めて世界を旅しているうちに極北に行き着いた。でも、まったく無人というわけではなく、たまにモーターボートに乗って地元の人が見物に来る。おまえは何をしているのだ、これはなんだ。と始まる。「ビッグ・ファン」−彼らがつけたモーターパラグライダーの名前だ。彼らに説明し、その場で飛んで、デジタルカメラで空撮した写真を見せるととても喜んでくれる、という。

◆彼らからはそのエリアの話を聞ける、たまには肉をお裾分けしてもらえることもある。森であり川だけだったのが、地元の人に出会い、彼らを知ると同じ景色でもその背後にある人を感じるようになり、空から見える大地が急に身近な存在になる、と多胡さんは言う。こうした交流をしながら9月まで行動を続けた。

◆ご両親を含め120人がつめかけた報告会は、大いに盛り上がった。カヤックとモーター・パラグライダーを独自のアイデアで取り入れた、エア・フォトグラファーの挑戦。危険を避けつつ、これからも世界を広げ、私たちに未知の風景を見せてほしい。[ツーリングライダー古山隆行]



地平線ポストから
地平線ポストではみなさんからのお便りをお待ちしています。旅先でみたこと聞いたこと、最近感じたこと…、何でも結構です。Fax、E-mailでも受け付けています。
地平線ポスト宛先
〒173-0023 東京都板橋区大山町33-6 三輪主彦方
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●三輪主彦さんから…2003.12.11《E-mail》…帰国直後のメールです

◆向後さんのマングローブ調査のお供でミャンマーに行ってきました。国連から世界最貧国にランクされ、総選挙の結果を無視し、アウンサンスーチーさんを監禁する軍事独裁国家なんぞに行ってなるかと思っていたのですが、現地をみて大きな驚きがありました。ヤンゴンのシュエダゴンパゴダは世界一の金のカタマリ。各地に金ピカパゴダがあります。この巨大な金塊を使えば経済なんかすぐに回復するはずです。しかしミャンマー人はお金が入ると金持ちも貧乏人もお寺に喜捨するので、そこで金塊に変わり、世間には回らないので経済活動は停滞するのです。

◆社会経済が行き詰まっているのは軍事政権のだけのせいではありません。ミャンマーの人々は現代経済の価値観とは違った世界に住んでいるのじゃないかと思いました。イラワジ河口のマングローブ地域では、経済の発展=幸せ という図式はありません。世界地図では、マングローブの森=貧しい地域のように見えますが、そこでは植物、動物、人間の「共生」が感じられます。マングローブ植物だって塩水より淡水の方がよく育ちます。しかしその植物は与えられた厳しい環境の中でフテ腐れずに、そこそこ満足して生きているのです。昔の人は良いことを言ってます。「足るを知るものは心豊かな人」。

◆今はちょっと悪いが経済的に発展したアメリカ、日本にはたして心豊かな人が多いのか。欲望には際限がない。どこかで足るを知らないと、行き着く先は破滅のみ。ミャンマーの田舎に破滅を逃れるヒントがありました。それを学ぶために来年は「イラワジ・みわ塾」を開催することにした。乞うご期待。


●後田聡子さんから…2003.12.1…ダルエスサラーム発《E-mail》

◆11月半ばに、タンザニアのンゴロンゴロとセレンゲティという国立公園をめぐるツアーに参加しました。少々お高めでしたが、行った甲斐があるツアーでした。 3泊4日のキャンプサファリで、ベルギー人のカップルと私の3人に、ドライバー兼ガイドと料理人がつきます。

◆3人ともわくわくしていて、初めて象を見たときには、グフグフ笑いながら、どんどん写真を撮っていました。アカシアの葉っぱに夢中だった象は、何か気に触ったのか、急にサファリカーに顔を向け、鼻を振り上げました。ガイドが無言で唇の前に指を立て、じっとして音を立てるな!と私たちに指示を出しました。その間に、象はサファリカーの後ろに回り、一歩足を踏み出そうとしています。草食動物の優しい目が、迫力の無表情に変わっています。(ああ象にやられてしまうー...)と思ったとき、象は急速に興味を失い、もとのアカシアの木に戻りました。いやあ、象にはドキドキさせられました!インパクトのある出会いでした。

◆その後、キリンシマウマライオンチーターヒョウインパラバッファローとヌーなど、あらゆる動物を見るチャンスに恵まれ、色んな感想を持ちましたが、それはまた日本でお会いしたときに。象には気をつけろ!、と今後サファリに行かれる方にはアドバイスを贈ります。



白根全、初出版本『カーニバルの誘惑』ついに完成!

10年近く刊行が待たれていた白根全さんのエッセイ・写真集『カーニバルの誘惑』がついに、ついに出来上がりました。カーニバルについて、斬新な写真と切り口のいい文章が早くも好評です。毎日新聞社発行。2500円とやや高いのですが、価値ある一冊、是非手元に。



石川直樹、熱気球で太平洋横断へ

日本の代表的バルーニスト、神田道夫さんとともに、石川直樹さんが新年早々、熱気球で太平洋横断を目指す。以下、本人からのメール。「1月5日くらいから風待ちに入って、ジェット気流の状態がいいときに出発します。高度約1万メートルの上空のジェット気流をつかまえて、およそ60時間で、太平洋を横断し、北米大陸の『どこか』に到着する予定です」(12月6日)。



地平線はみだし情報

冒険ライダーの風間深志さん、22年ぶり、2輪でパリ・ダカールラリーに出走。元日スタート!


地平線カレンダー2004、制作中です!!!

◆長野亮之介画伯のカラーイラストが心ゆくまで楽しめると、例年ご好評をいただいている「地平線カレンダー」。その2004年版を現在制作中です。今回のテーマは……まだ伏せておきましょう。できてからのお楽しみ、ということで。画伯ファンはもちろん、地平線の仲間ならぜひ飾っておきたくなってしまう、不思議な雰囲気の絵になりそうです。

◆サイズはA5判(よりちょっと小さくなるかも)で、6枚組。2ヵ月が1枚の絵になっています。頒布価格は、1部あたり500円。これに送料(120円/2部以上でも120円でOK)をご負担願います。

◆お申し込みは丸山まで( )。送付先と部数をお忘れなく(できれば電話かメールも併記してください)。お支払いは、後日カレンダーが到着してからでけっこうです。郵便振替で、加入者名「地平線会議・プロダクトハウス」/口座番号「00120- 1-730508」。通信欄に「地平線カレンダー・○部代金」と記入していただくと、あとの事務処理が楽になります(いきなり振り込まないで、まず申し込んでください)。

◆12月の地平線報告会の会場でも販売します(というか、なんとか間に合うようにがんばります)。お楽しみに!




■今月の地平線報告会の案内(絵と文:長野亮之介)
地平線通信裏表紙

この素晴しき世界

12/26(金) 18:30〜21:00
 師走 2003
 一金五百円也
 於:新宿区榎町地域センター(03-3202-8585)

「ワシもこれまでいろんなデータから、『北』には核が2基はあると書いてきたけど、世界一のプロフェッショナルにホントのところを教えてもらいたかったんよ」というのは、ロシアから今月上旬帰国したばかりのジャーナリスト、惠谷治さん。

クルチャトフ(ロシア原子力の父)研究所、ドゥブナ原子力開発研究所、戦略核開発の研究機関などで、北朝鮮の軍事事情を知悉している専門家7名にインタビューを行いました。果たして『北』に核兵器はあるのか?! 話を総合して見えてきた意外な見解を今回初披露して頂きます。

惠谷さんは地平線会議創設メンバーの一人。貴重な報告と合わせて、来年25周年を迎える地平線の過去と現在についても語って頂きます。

※なお終了後の二次会は忘年会を兼ねます。ふるって御参加を!


先月号の発送請負人 三輪主彦 丸山純 藤原和枝 久島弘 安東浩正 江本嘉伸 石川直樹 野地耕治 白根全

通信費(2000円)払い込みは郵便振替または報告会の受付でどうぞ
郵便振替 00100-5-115188/加入者名 地平線会議(手数料が70円 かかります)


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