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自転車で冬のシベリア横断に出発する前だから、一年ちょっと昔の話になってしまうが、ぼくの日本での学生時代に住んでいた下宿「暗闇荘」が閉鎖されてしまった。鳥取市郊外の片田舎にあるその部屋の窓からは、見渡す限り一面に田んぼが広がっていて、夜はウシガエルの大合唱で賑やか。裏山にはタヌキが住んでいてたまに庭に顔を出す。その下宿の家賃は格安月5千円。たむろする住人は、いつも金のない山岳部の関係者ばかり。かくいうぼくも山岳部員だった。どいつもこいつもただ者ではない。住人の海外渡航率は100%。しかもヒマラヤやアフリカといった辺境率がやたらと高い。共同の台所では、いつも誰かが怪しげな料理を作っていて、棚には当時鳥取では手に入らないようなガラムマサラやナンプラー(タイの魚醤)といった調味料が途絶えることはなかった。
●獣医学科の学生が多かったためか、実験用に飼われていてお役目御免になった犬や猫やニワトリが拾われてきて、下宿には放し飼い。玄関の戸をガラガラと開くと、まずは下駄箱の上に陣取っているオンドリが出迎えてくれる。この下宿では人間も動物も対等だった。動物用の点滴を腕に刺してハイな気分になっていたあぶない部員もいたくらいだ。壁にはクライミングウォールが設置され、焼酎やビール瓶がギアにまじって散らかっている、ゴミだめのような下宿だったが、ここほど自分の感性にぴったりの住処はなかった。ぼく自身は卒業して10年近くたってしまうのだが、この下宿にはずっと山岳部の後輩たちが住み着いていたので、鳥取に行くことがあればいつでも自分の古巣のような感覚で戻ることができた。
●山岳部員はなかなか4年では卒業しない。歴代の先輩方々には、休学してヒマラヤの未踏峰に挑んできたり、ヨセミテにクライミングの修行に行ってきたような正統派から、マグロ漁船に乗ってインド洋を巡ってきた先輩など、そんじょそこらにはいないような人ばかりだ。そういった連中に囲まれていると、人間なにか面白いことのひとつやふたつやることが当たり前の雰囲気になってくる。ぼくも大学を一年休学して旅にでた。人生が愉快に狂い始めたのは、間違いなくこの「暗闇荘」の住人たちの影響によるものだ。この下宿に住んでいなければ、このあいだの冬季シベリア横断なんて酔狂なことに出かけることもなかったに違いない。そんなバンカラだった下宿も時の流れか、なくなってしまった。故郷を失ってしまったかのように、鳥取が疎遠なものとなってしまった。
●話は変わるが、気が付くともう9月。ちょうど一年前の今時分に、フィンランドに程近いロシア領ムールマンスクから自転車でシベリア横断の旅を開始した。9月の北極圏はもう肌寒かったことを思い出す。短い夏が去り、そろそろシベリアもまた冬の季節を迎えつつあり、タイガの森もツンドラも深い雪と氷に閉ざされてゆくのだろう。河はやがて凍り、その上をまた生活物資を運ぶトラックが走り始めて冬にしか存在しない道が出来上がる。この間の自転車での横断はオホーツク海に到着した時点で春が来て、冬道も融けてしまい終わってしまったが、できることならもっと東へ、ベーリング海峡まで行きたかったことを思うと、冬の訪れとともにウインターサイクリストのぼくの血も騒ぎだす。だけれどまたすぐに出かけるというモチベーションもなかなか沸かないものである。
●それで今は何をやっているかというと、群馬の山奥でイヌワシの人口巣をつくる作業にきている。猛禽類では日本最大のイヌワシ。推定生息数は500頭。お目にかかることすら珍しく、種を維持するには最低数の生息数なので絶滅を危惧されているらしい。巣は断崖絶壁のオーバーハングの下のテラスに作られる。羽を広げると2メートルにもなるという大きなワシが巣を作れるようなテラスは自然界にもなかなかなくて、土砂降りの雨で巣が崩落してしまうことも多い。そこでそんなテラスを作れば多少はイヌワシの減少を食い止められるのではというのが、今回のプロジェクト。よって設置はクライマーの仕事となる。まあぼくはクライミングサイトにおける安全確保の仕事だけだが、状況確認にユマーリング(登行器を使って宙ぶらりんのロープを登ってゆくこと)して岩壁数十メートル上の現場にゆくと、ほとんど宙吊りになったままの作業はなかなかスリリングだ。イヌワシがこの巣を見つけてくれれば、と願うばかりである。[安東浩正]
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坪井伸吾 |
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〒173-0023 東京都板橋区大山町33-6 三輪主彦方 〒160-0007 東京都新宿区荒木町3-23-303 江本嘉伸方 E-mail : / Fax: 03-3359-7907(江本) |
●浅野哲哉さんから…2003.8.27…《E-mail》…地平線会議発足当時、法政大学探検部の学生でした
◆先日はおひさしぶりでした!! 世話人のみなさんに出会えて、すっごく励みになりました。ずーーと続けてこられた皆さんの努力に感動してます。なにもお手伝いできず、すみませんでした。
◆昔、「インドを食べる」発刊キャンペーンで、カミサンをカルカッタ製人力車に乗せて東京を走ったこと、それを江本さんが記事にしてくださったことを思い出しました。あの時の記事と写真は、以下のページに昨年まとめてありますので御覧ください。
http://www.indo.to/masala/HBIndia/Life/TRAFFIC/Tp020051.html
◆小生、ここ数年はインドの「食」の世界から離れ、現地で収集してきた「コーラム」と呼ばれる吉祥紋様の世界にどっぷりつかっています。2年前に17年降りに北インドを旅してからは、整体の修行をしながら、ひたすら「コーラム」の表現世界に没頭。この1年間で約50作品のアニメを作り続け、Web上で公開しています。
http://www.indo.to/masala/KLM%20Animation/KA-index.html
(中略)
◆従来、インド関連のイベント(古典音楽や舞踏のコンサート等々)は、とかく退屈なイメージがありましたが、まったく新しい、新鮮な表現世界を獲得しつつあります。しかも、最も原初的な女性の家庭芸術と口琴という始源の楽器とのコラボレーションですから、その背景にある様々な文化的・科学的内容も示唆に富んでいます。地平線会議的な「行動」ではありませんが、未知なる「インド表現」の地平線をめざす、「思念的行動の記録」といえるかもしれません。
◆法大探検部の後輩たちは、今、スリランカの仏教遺跡探査をしていますが、帰国後の報告会が楽しみです!!
●シール・笑みこさんから…2003.9.6…大阪市発《E-mail》
◆江本さん、お元気ですか? まだまだ暑いですね。おととい会った東京の友達が、大阪の暑さにびっくりしていました。ほんと、蒸し暑いです。
◆いま、関東地区で住むところを探しています。希望は、八王子か多摩か相模原周辺で、来年の5月に都営に申し込んでみようと思っていますが、できれば、廃屋? ずーっと空き家の一戸建てか、アパート、団地、とりあえず住めたらOKですが、家賃は2万円ぐらいで、できたら2DKを希望しています。関東では難しいでしょうか?
◆もし、2、3年旅に出られる方で、留守宅を守って、なんていいお話ないでしょうか? 1年でもいいです。または、生活道具がそろってないので今みたいな下宿というのも考えています(短期可)。いいお話がありましたら、ぜひぜひお知らせくださいませ。
◆P.S.こちらは、のんびりペースで過ごしております。こころのどかに、毎日に感謝しています。ご安心を…。
●三輪主彦さんから…2003.9.3…板橋区発《E-mail》
◆フリーターになったので、好きなときに遊びに行けるようになりました。8月は数日、東京にいただけです。昨日ミャンマーのイラワジ川河口のマングルーブ林から帰ってきました。雨季なので毎日雨雨で、すべてが湿って、ジトジト、グチャグチャになっていました。東京はカラッとして涼しくて過ごしやすいですね。だれが東京は世界一湿気が多くて住みにくい町だとなどと言ったのか? とりあえず、帰りましたの挨拶ですが、金曜日からは八ヶ岳(みわ塾)です。
――地平線会議からのお知らせ―― 地平線報告会の拠点を、アジア会館から、榎町地域センターに移します |
◆1979年9月26日、第1回地平線報告会を開いた時から、地平線会議は赤坂8 丁目、地下鉄青山1丁目駅に近い「アジア会館」を利用してきました。毎月ほぼ必ず第4金曜日、アジア会館の2階「2A」室は、地平線会議の専有状態とさせてもらってきたのです。
◆2年前、そのアジア会館が全面改築されることとなり、会議室が使用できなくなって、新宿区の「箪笥町区民センター」を中心に報告会を開いてきました。アジア会館新装なった折には、再び、“復帰”するつもりでした。
◆さる7月15日、アジア会館は新装オープンされました。すぐ駆けつけたのですが、新装にともない、会議室の使用料金は、予想以上に高いものとなりました(たとえば、100人が入れる会議室は、8万円〜16万円です)。
◆懐かしい、思い出多い、アジア会館ですが、この際、毎月の報告会で利用することを諦め、最近地平線通信の発送作業を含め、報告会にも何度か使って好評の、「新宿区榎町地域センター」を今後、地平線報告会の中心会場とすることに決めます。地下鉄早稲田駅から近く、ここも足の便は悪くありません。アジア会館ファンの方々、どうかご了解ください。
◆榎町地域センターのアドレスは、以下の通りです。
◇東京都新宿区早稲田町85 〒162-0042
Tel 03-3202-8585
◇営団地下鉄東西線:早稲田駅 徒歩7分
◇都バス(白61)新宿西口→練馬車庫:牛込保健センター前下車
◇公式地図はこちら
http://www.city.shinjuku.tokyo.jp/division/261500enoki/senterindex.htm
◆来年には300回を迎える地平線報告会を、これからもよろしくお願いいたします。[地平線会議世話人一同]
希望砦の森から〜2人と1匹の北極圏〜 「自分の手で殺したウサギの味は、それまで食べたどれよりおいしかった」と話すのは菊地千恵さん。2000年、カナダ・マッケンジー河流域のフォート・グッド・ホープという村に1人で1年滞在していた時の経験です。 |
郵便振替 00100-5-115188/加入者名 地平線会議(手数料が70円 かかります) |
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