2002年11月の地平線通信



■11月の地平線通信・276号のフロント(1ページ目にある巻頭記事)

地平線通信表紙沖縄へ行って来ました。プライベートな旅行は久しぶりです。といっても、85歳と77歳の両親と一緒だったので、添乗員と運転手とガイドを兼務でした。

●去年まで足かけ3年通い続けた沖縄出張で貯まったマイルを使って、家族で旅行しようというのがそもそもの始まりでした。嫁さんの親と私の親もみんなで一緒に行くことになっていたのですが、直前になって子供がおたふく風邪にかかってしまい、結局私と両親だけで行くことになってしまいました。

●戦争中、私の父は「風部隊」という陸軍の航空通信部隊に所属し、台湾にいました。風部隊は各飛行基地で情報の送受信や補給整備に当たっていました。昭和20年6月22日、米軍の攻撃に追われて摩文仁まで南下した沖縄の風部隊は「…これで通信所を閉鎖します。さようなら。」という通信を最後に斬込隊となり、その大半は帰らぬ人となったそうです。台湾の風部隊でもこの通信を傍受していて、部下の通信士が泣きながら報告に来たという話を、今回父から初めて聞かされました。

●激戦地だった摩文仁の丘周辺には、現在50基ほどの碑が建っています。その中のひとつに、沖縄の風部隊で生き残った人たちが中心になって、約25年前に建立した「風部隊之碑」があります。父は数年前に戦友からこの碑の存在を知らされて、いつかは行ってみたいと思っていたようです。

●米軍は当初、台湾を経由して沖縄へ上陸する作戦でしたが、司令官の方針で直接沖縄へ上陸することになったということです。もし台湾を経由していたら、父が風部隊之碑で眠っていたかもしれません。本人も、息子の私も、他人ごととは思えない心境になりました。

●その風部隊之碑を見に行く日の朝、碑を建立し、管理している航風会の会長さんと副会長さんに連絡したところ、突然の電話にも関わらず一緒に行っていただけることになりました。お二人は、いま、83歳と90歳です。もちろん風部隊の生き残りで、貴重な話をたくさん聞くことができました。

●軍属(技術者などで兵隊ではない人のことです)だった副会長さんは、戦況が悪化してくると突然階級章を渡され「今日から軍人だ」と言われました。米軍から逃げて、現在ひめゆりの塔が建っているあたりの下の洞窟で、たいまつを持って何時間もさまよったこともあるそうです。いまの摩文仁は緑も多く、平和に見えます。が、50数年前、地形が変わるほどの攻撃を受けて、山肌があらわになっていたなどと聞かされると、当時にタイムスリップしてしまいそうでした。

●今まで父が戦争中の話をすることはありませんでした。しかし、ふともらした「戦争なんかしちゃいかんよ」ということばには、戦争を体験した人の思いがすべて込められているように感じました。

●風部隊之碑や他の碑も、建立した人たちが高齢化してきており、今後どうするかが問題になっているそうです。子供の代まではまだ維持してくれるだろうが、孫の代になったらもう見てはくれまいと、航風会の会長さんが言っておられました

●仕事では30回以上通いましたが、今回、父の体験を通じて、今まで知らなかった沖縄を垣間見ることができました。戦争で犠牲になった多くの人たち、残されてそれを伝えようとしている人たち、そして、いまだに犠牲になっている沖縄の人たちに対して、自分は何ができるかを問いかける旅でもありました。[武田力]



先月の報告会から(報告会レポート・277)
文明開化の憂鬱
丸山純・令子
2002.10.29(火) 箪笥町区民センター

日本の若者が辺境の村を訪ねる。村の青年と親友になり、ある時村に内緒で、2人で街に出る。自動ドアに驚く青年、電灯は夜も明るいのだと始めて知った青年、電車が走るのをじっと見つめる青年。若い2人のはしゃぐ様が見えるようである───そして、村の青年は日本の若者に「国境警備隊」に入りたいと告げる。若者は斡旋を断り切れないが、一方家を支えるべき彼を村から引き抜くこともできず、裏で事情を話して彼が採用されないようにしてしまう。今回丸山純さんが語った、彼の三度目のカラーシャ訪問の際のエピソードである。若者とは無論純さん自身のこと、そして青年というのが地平線通信にも名前の出ていたベークことバリベークのことだ。私にはこれが、今回最も印象に残った話だった。

◆丸山純さん・令子さんの今回の報告会は二部構成で、前半はchiheisen.netにも紹介のあるMihoko's Fund(以下基金)の今年の活動を紹介した。素晴らしいのは子供達の写真だ。元気いっぱい遊具に群がる子供達、花壇に撒く種を興奮した笑顔で受け取り、大きな目を見開いてじっと紙芝居を見つめ、「大きなかぶ」の演技に大はしゃぎの子供達。何とも可愛らしいのはひとりの幼い少女の写真で、かくれんぼの鬼のように顔を覆って立っているのは何?と思えば、詩を朗読しているのだが、恥ずかしさのあまり原稿で顔を隠しているのだった。「声がふるえて可愛かった」と令子さん。「ホーチ!ホーチ!(ひっぱれひっぱれ)」とカブを抜く動作が大好評で、子供達がそこら中で真似をしたというが、純さん・令子さんの柔らかい笑顔がそもそも大好評だったに違いない。お二人が用意した授業参観の最後には、子供達が揃って基金の活動に感謝の言葉を述べたそうで、思わず熱いものがこみ上げたそうだ。

◆後半は今回のテーマ、カラーシャの谷に見る援助の問題。「これが(地平線通信の案内に名前のあった)ファイジです」と見せられたスライドにひっくり返りそうになった。まだ10歳そこそこの子供じゃないか!しかしこれは私の勘違いで、20年以上も谷に通い続ける純さんは、今は立派な大人に収まって、援助導入で村を急速に変革しようとしている張本人が、まだはなたれ小僧だった頃の写真も持っているというわけだ。昨日今日見聞きしてきた話ではないと再認識、俄然説得力が増す。

◆話は2人のここ20年を追うようにして始まったが、次第に不協和音が混じる。スクリーンにはちぐはぐな外観の豪邸や、広場に集まる人々を圧迫するような「日除け屋根」が映し出され、「街に出た若者の多くは援助のピンハネで豊かになっている」などという話が出る。話が熱を帯びてテンポよく進み、理屈を跳び越えて「何か間違っている」と感じさせる。

◆「援助」に見出される問題の多くは援助のやり方の問題である。有効活用できないものを贈ったり、物資が適切な人に渡らなかったりというのは、やり方を考え直せば解決される。しかし純さん・令子さんの問題意識は少し異なり、より深い。援助が確かにそれを欲する人々の生活水準を上げ、関係者全員満足したとして、なお問題は無いのか、と問うのだ。その点、完璧に成功したかに見える基金の活動にも疑問の眼差しを向ける。「子供達の笑顔こそが援助の甘い罠ではないか」と。カラーシャの場合、たとえピンハネであれ当地の人々は確かに潤っているのだが、援助マネーの流入で伝統社会は動揺する。街と同じような家を建てれば冬は暖かいかも知れないが、春祭りの喜びは薄れてしまう。財力の変動があれば、人間関係もギクシャクするだろう。そこで冒頭の物語である。この物語は外部の経済社会に触れて村社会の価値観が動揺する、援助問題のあまりに鮮やかな象徴のように、私には思えたのだ。

◆今、ギリシアのNGOが谷で巨大プロジェクトを進めている。流入するマネーの量に、誰も否とは言えない。その中で起きた事件に、純さんは報告の最後に触れた。谷でスペイン人と世話係のカラーシャの少年が殺された。その際、少年だけが猟奇的な殺され方をしていたというのだ。純さんは潤うカラーシャへの周辺ムスリムの妬みを危惧する。

◆子供達の笑顔と伝統社会の動揺、文明について、幸福について、いろいろ考えさせる報告だった。[松尾直樹]



地平線ポストから
地平線ポストではみなさんからのお便りをお待ちしています。旅先でみたこと聞いたこと、最近感じたこと…、何でも結構です。Fax、E-mailでも受け付けています。
地平線ポスト宛先
〒173-0023 東京都板橋区大山町33-6 三輪主彦方
〒160-0007 東京都新宿区荒木町3-23-303 江本嘉伸方
E-mail :
Fax: 03-3359-7907(江本)

●生田目明美さんから…2002.11.17
 …樫田秀樹・吉田雅子さん結婚披露宴の日のメール
◆今日は久しぶりにお会いできて、うれしかったです。私が言うのはほんとにおこがましいですが、地平線の集まりはいつ行っても、なんだか、老若男女いろいろなものを超えたところで、いいなぁと‥(なんかうまく言えませんけど‥)それにしても、樫田さん!おめでとう!もう何度、この台詞を言ったでしょうか。でも、何度でも言いたくなってしまう。いつも私の方が樫田さんにはいろいろ相談に乗ってもらったり、飲みに付き合ってもらったりして、なんだか自分のことばかりで、、、だからこそ、結婚するとメールが来た時にはホントによかったねよかったねと、ひとりでパソコンのディスプレイに向かって、話しかけてしまいました(笑)。それにつけても、雅子夫人は美しく、料理も上手で、気さくな人柄の上、しっかりものと、、、待てば海路の日和ありといいますか、果報は寝て待てといいますか。ばかの一つ覚えみたいだけど、「ほんとによかったね!!」

◆ついでと言っちゃぁなんですが、、生田目もしばらく地平線にはご無沙汰してしまいましたが、ちゃんと生きていました。(中略)今は少しばかりの旅の経験を生かそうかなと、海外旅行の派遣添乗員をしています。自分の旅とちがって、ひとさまの旅のお供というのは、結構しんどいものですが、いつでも、旅の空の下というのは、いいものではあります。それに、なんと勇気ある物好きがいて、今年6月に私もついに年貢を納め、人妻をやっております(笑)。

◆そして、その勇気ある物好きは、皆さんご存知の私の破天荒な過去を全て踏まえて、受け入れ、忍耐強く、私のわがままに翻弄されております。やれやれ、、、(笑)信じられないかもしれませんが、私より6歳年下でごくごく普通のサラリーマンなので、優雅な新婚生活というわけには行きませんが、絵に書いたような、平穏で幸せな暮らしをしております。ちゃんちゃん、、、めでたしめでたし、、、と行きたいところですが、どうも問屋が下ろしそうにありません。とほほ、、こんなに幸せな日々なのに、、、私の耳にはどうしても砂漠の風の音が聞こえてしまうのです。がけっぷち症候群とでも言いましょうか、、、こまったものです。今は子供が欲しいと思っています。子育てはとても大変だと聞きますが、子育てをしていると、風の音は聞こえないのですかね。。。 P.S.よく効く子宝の湯があったらおしえてくださーい!!(笑)


●鈴木博子さんから…2002.11.8
 …ラサ発《E-mail》

◆江本さん江。こんにちは。強烈な衝撃を忘れないうちに書き留めておきたいです。鳥葬に行ってきました。クリアな空が続き、くっきりと山肌が見える。まさしく森林限界を超え、天に近い場所。しかし、そこはまるで当たり前のように人間の住む場所でもあります。

◆初めてだった…腐敗した真っ裸の人間の死体をみるのは、人が人の肌を大きなナイフで切り裂くのを見るのは、そしてもちろん鳥がその物体に食いつき、取り合っている姿を見るのは。そこに立ちすくみ瞬きするのを忘れるくらい目を見開き動けないでいました。全身の力が抜けていくような…脱力感。胸が苦しかった、それはただ単純に標高が4500mあるというせいだけではない気がしました。今まで感じたことのない空気が流れており、しかし空はいつもと変わらない色を漂わせており、何も考えてはいなかった。人とはまるで思えない骨が残り、また人が大きな金づちで破片を飛び散らしながら砕き割る。それを大きな鷲鷹が食いつく。数十もの鷹は人の肌と思える物をくわえながら仲間同士で威嚇し合う。全て無くなる。今の私にはこの状況を受け止めることは出来ても、これを死と結びつけることは出来ない。いや、もしかしたら一生整理できない難しい感情なのかもしれません。

◆江本さんはチベットの何を見て、何を感じたのでしょうか。チベットのことを知りたい、聞きたいと強く思います。きっと隠れているものがあり、本当はもっとチベットの厳しさが残されている場所のような気がします。日本に帰ったら色々お話を聞かせて下さい。チベットに皆が惚れるわけがなんだか分かりかけています。少しずつ自分の中に確かな意志と、強い感受性を得られたらと思います。旅するわけは何だろうと考えるのはよしとし、今は若いからと自分に言い聞かせておきます。それでは。


●高見亜希子さんから…2002.11.9
 …高知県宿毛市・すくもユースホステル発

◆6月の地平線報告会での地平線会議の皆様との運命的(自己解釈ですが)な出会いから、早いものでずいぶん月日がたってしまいました。来年3月29日、30日に豊かな自然の残る四万十川周辺で、何やらやらかそうと案を練っております。決して派手ではないけれど、素敵な感性を持つ方たちに集まっていただければ、そこには新しい風が起こるに違いないと思っております。皆様にぜひ参加したいと思っていただけるようなメニューになることを期待しつつ。

追伸・山田高司さんとお話しして、そのお人柄と豊富な体験と知識に触れ、とても素敵な方と関わることができてよかったなあと思いました。もうすぐお子さん(おそらく男の子だそうです)が誕生するご予定ですが、そうなると山田さんの力はさらにパワーアップする気がします。

高見さんホステルのホームページは、http://www.gallery.ne.jp/~takami/


ライフスタイル見なおしフォーラム
アジアの環境映像から見なおす、
わたしたちのライフスタイル

日時:11月23日(土・祝)13:00〜16:30

会場:新宿パークタワー16階101会議室

主催:アースビジョン組織委員会、東京ガス(株)

協力:国際山岳年日本委員会、日本エコツーリズム協会

参加費:無料 定員200名

プログラム:アースビジョン作品上映「踊りの記憶」(第10回地球環境映像祭入賞作品)/「飽食の行方」(第8回地球環境映像祭入賞作品)/国際山岳年日本委員会事務局長・江本嘉伸氏よりスピーチ/他

作品紹介
■「踊りの記憶」(日本/49分) EARTH VISION 第10回地球環境映像祭入賞作品海とともにまた山とともに生きてきたフィリピン・パラワン島、ルソン島、ミンダナオ島の先住民の姿を、美しい映像とともに描く。かつては植民地として支配され、現在は開発という別の脅威に支配される。彼らは自らの環境と文化、伝統を守るため立ちあがった。

■「飽食の行方」(香港/21分) EARTH VISION 第8回地球環境映像祭入賞作品世界の多くの地域で飢餓に苦しんでいる人々がいる中、香港では、毎日少なくとも2,000トンもの食べ残しがゴミとして捨てられている。航空会社キャセイパシフィックは、香港中の残飯を集め、動物の飼料にしようという活動を率先して行っている。その行方に立ちはだかる困難とは。政府の協力は得られるのか。また人々の反応は。

◆ライフスタイル見なおしフォーラムは、環境活動を行っているNGO、消費者団体、労働組合、企業、行政機関が横断的に連携し、2000年から始まったフォーラムです。毎年11月から12月に東京を会場にシンポジウムや分科会、展示会を実施してきました。今年も11月23日〜25日の日程で、新宿パークタワーと都庁大会議室を会場に開催する計画です。43もの参加団体で構成する実行委員会と環境省、東京都が主催、この中の1つを、アースビジョン作品の上映とフリートークとして企画。分科会テーマは今年は国際山岳年と国際エコツーリズム年にあたっており、環境映像を通して山とエコツーリズムの視点を切り口にライフスタイルを見つめます。




■今月の地平線報告会の案内(絵と文:江本嘉伸)
地平線通信裏表紙

アフガニスタンちゃいはな旅日記

11/29(金) 18:30〜21:00
 NOv. 2002
 ¥500
 牛込箪笥区民センター(03-3260-3677)
 都営地下鉄大江戸線牛込神楽坂駅真上

チャイハナ。中央アジア独特の茶店兼レストラン。早稲田をめでたく卒業した石川直樹さんは、「9.11」後の世界を見届けたい、と、この秋、二度にわたってアフガニスタンに入りました。Tシャツ一枚とカメラ。民族服を着、ハザラ人になたすませての、文字どおり身ひとつの旅。寝泊まりは、もっぱらチャイハナでした。
南の海、極地、ヒマラヤを歩いてきた青年がそこで見たものは……。新鮮で超ホットなアフガン報告、お見逃しなく!!


通信費(2000円)払い込みは郵便振替または報告会の受付でどうぞ
郵便振替 00100-5-115188/加入者名 地平線会議(手数料が70円 かかります)


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