2002年6月の地平線通信


■6月の地平線通信・271号のフロント(1ページ目にある巻頭記事)

地平線通信表紙 昔話です。横浜の高台にある高校(県立横浜緑ヶ丘高という)に通っていた頃、米軍用トラックに満杯の壜詰めの飲み物のことがいつも気になった。高校は、米軍の接収地に囲まれていて、芝生を刈り込んだきれいな米軍家族の家の間を通学するのだが、ガシャガシャン、と音をたててトラックがわきを走りすぎるたび、その賑やかな音を発信している焦げ茶色のおいしそうな冷たい飲み物への妄想がかきたてられた。

◆2年の夏のある日、山下公園の前にあったアメリカ文化センターで突如、待望の茶色の液体をもてなされた時の興奮がいかほどであったか、いまの高校生には想像もできないであろう。長い、長い憧れの時間の後に、ついに未知の味にふれるのだ。コップに注がれたそれは、まさに美しかった。ひんやりして気品さえあった。それなのに・・。

◆「ぐへっ、何なんだ、これは!」というのが、ぐぐっと一口飲んだ時の感想だった。「薬じゃないか、こりゃ・・」。単に期待が大き過ぎただけなのだが、カルピスとコーヒーとラムネを混ぜたような、おとな風の不可思議な味を期待していた17才の妄想は、無残にもうち砕かれ、以後「コカ・コーラ」という飲み物は、私の中で「見かけ倒し」のモデルのようになってしまった。社会主義時代のモスクワや北京で「可口可楽」の販売開始が話題になった時も、なぜレーニンや毛沢東が美国(アメリカのことです)の薬もどきを飲むんだよ、と、からみたくなったほどだ。

◆この6月1日、すでに半端でない人生経験を積み、深い洞察力を会得した筈の私は、いつ終わるとも知れない長い道をとろとろ走りながら、あの焦げ茶色の液体を必死に探し求めている自分に気づき、ありゃりゃ? と、思った。焼けつくような陽射しの中、今やあのギュッと喉元を刺激して通る、茶色の液体だけがどういうわけか、無性に飲みたく、道端の自動販売機に目を走らせる状態だったのである。

◆この日午前5時、広島県の福山にある福山城をスタートした。地平線の報告者でもあるウルトラ・ランナー、海宝道義さんが主催する、瀬戸内海を島づたいに行く「しまなみ海道遠足(とおあし)」で、愛媛県の今治の城まで100キロを16時間以内で走るのが、一応のルールだ。相棒の三輪主彦ともども700余の「エネルギー無駄使い人」は、途中19箇所ものエイドに励まされながら長大な橋をいくつも渡り、瀬戸内海をひた走るのであったが、バテるにつれ「コーラさま!状態」になっていたわけである。

◆北極の海で帰らぬ人となった河野兵市もコーラばかり飲んでいたのだから、いいものでもあるのだろう。熟年の今になって少年時代にがっかりさせられた、あの不思議な飲みものの価値を再発見するというのがおかしい。

◆ともあれ、瀬戸内海の素晴らしい夕陽を見ながら(この美しさを、明るいうちにゴールしてしまう早いランナーは知らない。三輪も見ていない)無事完走。翌朝、往路をバスで戻り、話をすることになっている東広島の「山の集会」に向かった。バスの中でやれやれ、こんなに走ったのかね、と相棒とあきれた。

◆東広島の山の公園には、山の絵を描きにきている子どもを含め1400人の市民が集まっていた。上天気。司会の女性に「きのう、福山から今治まで100キロも走って来たスリムな江本さんです」と紹介されて壇上に立つと、拍手が湧き起こった。テレくさいが、いい気持ちだった。

◆さて、今月は思いっきりエネルギッシュに、地平線会議始まって以来、東京で2度、地平線報告会を開きます。3か月連続の関野吉晴(25日)、チョモランマの異色の3人(27日。山田淳の登頂祝いも2次会で)―どちらも、見逃せない内容です、必ず両方とも来るべし!!(江本嘉伸)



先月の報告会から(報告会レポート・271)
「360万年のピクニック」
〜グレートジャーニー・エピソードII〜
関野吉晴
2002.5.28(火) 箪笥町区民センター

◆関野氏はテレビでも報告会でも、タンザニアでのグレートジャーニー(以下GJ)最後の行程を繰り返し「気持ちいいゴールだった」と語っている。この「気持ちいい」という言葉だが、我々は春の柔らかな光にも、秋の高い空にも、さらには扇風機の風にすらこの言葉を使う。つまり至って平凡な言葉なのである。

◆旅にしても語りにしても、何をするにも人それぞれのスタイルというものがある。そしてある人は個々の行動のスタイルが人間性をストレートに表しており、またある人は個々のスタイル同士が整合性に欠き、なかなか人物像が描けない。その点関野氏の行動スタイルはとても整合的なように、私には感じられる。カタチを繕うのではなく、内面が自然に発露するに任せて自分の行動を形作った人の姿だと思う。飾らない、素朴で暖かみのある人間性が、平々凡々な「気持ちいい」という言葉となり、そして穏やかに、しかしどんな美辞麗句より雄弁に語る。

◆その飾らない言葉で、今回はGJのエピソードを交えて少し深い話が語られた。語りは話題の上でも地理的にも広範囲に渡る。世界中を渡り歩き、ある時は中央政府と交渉し、またある時は一兵士をなだめすかし、そしてある時は伝統的な暮らしを守る現地の人々と触れあったGJの中心人物であればこそ、エチオピア高原とアンデスの高地帯を比較し、政府の建前と現地の本音を並べてみせることができる。GJ完結編の放映を切っ掛けに地平線にやってきた皆さんにも、地平線報告会の醍醐味を味わっていただけたのではないか。

◆前回に引き続き披露されたスライドはアフリカのものが中心で、二十世紀の芸術家達が衝撃を受けたアフリカの強烈な色彩がスクリーンの向こうに息づいている。どれも力強く美しかったが、特に私の印象に残ったのは個人を撮った写真であった。カメラをはさんで一対一で対峙する時には、必ず写真家と被写体の人間関係が問題になる。関野氏に義兄弟の印である蜂蜜を贈ったという青年の遠くを見つめている姿は、その人間関係の絶妙な距離を掴んだ結果と言えよう。拒絶されるほど遠くなく、馴れ合いになるほど近くない、その距離が単に私的な記録に留まらない、人間の本質を捉えるような写真を生み出す。関野氏を素朴で暖かみがあると書いたが、どうやらクールな視点も持ち合わせているようだ。深く見つめれば見つめるほど、味わいのある写真であった。

◆ところがその写真が、なんと今回もまた披露しきれなかった。今月の報告会を二度に増やして第3回GJ報告会を企画し、完結を目指すとのことだ。が、それで果たして終わるのか、と問うてみよう。あるいは、何が終わるのか、と。用意したスライドの披露は終わるだろう。GJ報告会も、それで終わる。ではGJ報告会を如何なる言葉で締めくくるのだろうか。GJにかけた十年は、一言二言で総括できるほど小ぢんまりした十年ではなかったはずだ。旅の記録のすべてが語り尽くされるわけではない。旅の途上で抱いた思い、なされた思考も、紹介し尽くされない。むろん写真もスライドに入らなかったものは披露されない。そして何より、GJは今やっと完結し、関野氏の思い出になったところなのだ。思い出が時間を経て、真の価値を持ち始めるのはこれからである。してみると、GJは終わったのではなく、今、始まるのだともいえよう。

◆「終わり」は編集された物語にしかない。経験したまま未編集の旅の話には終わりなど無くていい。ことある毎に引き合いに出し、何度でも語ればよいではないか。今は武蔵野美術大学で授業を受け持たれお忙しいことであろうが、今回に限らず何度でも報告会の壇上にのぼっていただきたい。そしてご家族の労に報いた暁には、再びGJの記憶を携え、また新たな旅路に立たれることを期待していよう。(哲学するマックユーザの東大生、松尾直樹)



地平線ポストから
地平線ポストでは、みなさんからのお便りをお待ちしています。旅先からのひとこと、日常でふと感じたこと、知人・友人たちの活躍ぶりの紹介など、何でも結構です。E-mail、Faxでも受け付けています。
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◆ヒマラヤへ食事修行に!◆

来春のイエテイ同人西暦2003年エベレスト登山隊への参加可能の可否判断の為、ネパールへ食事修行に行きます。ダルバートやモモ、チョウメン等の現地食に耐えることが可能ならば、登山隊参加OK、耐えられなければ参加NGです。期間は6月9日から7月10日までですが、耐えられなければ早めに帰国します。なお、口直しの為帰路バンコックに立ち寄ります。

◆6月1日、兵庫県日高町で行われた中山嘉太郎さんの植村直己冒険賞授賞式と講演会、及び祝賀パーテイに出席しました。他に東京からは田口幸子さんと三輪倫子さん、大阪からは阪本真理子さんと関根孝二さんが出席しました。盛大な会で、植村直巳冒険賞の重さを実感しました。

◆上記のため、5月31日から6月2日までマイカー旅行をしました。運転継続能力チェックの為、高速道を使わないで東海道と9号線を使用し、往路750kmを14時間要して日高到着は1日の午前4時。停車したのは、袋井での燃料補給と岡崎での食事の2回のみ。復路は1日21時出発、舞鶴を経て石川県小松市に義母を見舞ったので、700kmを実走行15時間、帰着は2日19時でした。後遺症皆無で、運転年齢はまだまだ若く(ランは駄目ですが)、アメリカ大陸横断の"RUN ACROSS AMERICA"の運転手も務まりそうです。

◆"RUN ACROSS AMERICA"とはロスからニューヨークまでの4983.9kmを71ステージに分け、第1回の今年は6月15日から8月24日まで走ります。エントリー12人中9人が日本人で、そのうち日本ウルトラ・ランニング登山クラブ会員は阪本真理子、越田信、浅井保弘、武石雄二、下島伸介さんの5人、残りの4人も走友で全員の完走を願っています。
2002.6.4(香川澄雄)


◆米大陸横断ランに!◆

行ってきます! アメリカ! 6/12成田発ちます。昨年の暮れのことです。「アメリカ大陸を走って横断する大会があるんだよ!5000kmロスからニューヨークだぜ!」酒の勢いもあって、★おお!行ってみるか?★ この一言が人生を変えたのです。あれから半年短かったですね。煙草も止めました。頭も丸坊主に刈りました。広いアメリカで自分を燃焼させたい!走りたい!まずラスヴェガスまで! ロッキーを越えたい!デンヴァー迄──! ミシシッピーを!───アパラチアを越えたら─!ゆっくり じっくり楽しく 苦しくても焦らず 決して諦めず 困難を乗り越えて、遥かなるセントラルパークを目指します!力強い応援!アドヴァイス!日の丸の寄せ書き!アイデアグッズ!───有難う御座いました.───皆様から頂いた暖かいお気持ちを追い風にして500万歩の第1歩を6/15 8:00 Huntinton Beach STARTします。[2002.6.11. 下島伸介(のぶゆき)]

★アメリカ行きの詳細HP*御笑覧ください。
日本語 http://members.jcom.home.ne.jp/raa2002japan/index.html
英 語 http://www.runacrossamerica2002.com/



特別文化フォーラム
『チベットと日本 1939〜1959』

◎日 時 2002年6月28日 (金) PM 18:50〜21:40
◎場 所 新宿文化センター・小ホール
     (東京都新宿6-14-1)
◎入場料 2000円(当日受付のみ・先着順)
◎定 員 210名
○主 催「チベット・ハウス」tel.03-3353-4094

【第1部 歴史の証人に聞く】
<メインゲスト> タクツェル・リンポチェ
         =ダライ・ラマ法王14世の長兄として、祖国チベットの歴史の中枢に生きる。
<特別ゲスト> 野元甚蔵=関東軍の情報員としてチベットに入る。1939年から1年半シガツェに滞在。
〔聞き手〕江本嘉伸 ジャーナリスト。地平線会議代表世話人。
【第2部 日本初公開ビデオ上映】1956年、ダライ・ラマ、パンチェン・ラマ インド聖地巡礼
〔総合司会〕木内みどり


【はみ出し情報】

つるおかユースホステルを再興・運営してきた菊池 良磨さんと加藤 智恵さんが結婚! 結婚式は荒廃した葉山の森を再生させる活動を行ってきたお二人らしく、森に誓いをたてる「森誓結婚式」という、大変ユニークなかたちで行われたとか。おめでとうございます!
※つるおかYHは第243回報告会「出羽庄内ミレニアム大会(21世紀最初の報告会!)」第2部の会場。




■今月の地平線報告会の案内(絵と文:長野亮之介)
地平線通信裏表紙

奇跡のゴール
グレートジャーニーファイナル

6/25(火) 18:30〜21:00
 Jun. 2002
 ¥500
 牛込箪笥区民センター(03-3260-3677)
 都営地下鉄大江戸線牛込神楽坂駅真上


人類発祥の地アフリカからユーラシアを経て南米大陸南端までのルートを全て人力で遡行するプロジェクト「グレートジャーニー」がスタートしたのは、'93年12月5日。シーカヤックによるビーグル水道横断から始まりました。それから9年。5万キロの旅の終わりは、乾いた大地を踏みしめるゴールでした。

絶妙のタイミングで国境を抜けられたのは奇跡的でしたが、日本のパスポートの神通力を実感する旅でもありました。もちろん強力なサポーターなくしてはとうてい実現できなかったことは、言うまでもありません。

2回にわたってお送りしたグレートジャーニー報告会ですが、今月はいよいよファイナル。2回聴いた人は必見の3回目。まだの人は、一番オイシイところをじっくりと味わってください。


エベレストの握り方

6/27(木) 18:30〜21:00
 Jun. 2002
 ¥500
 牛込箪笥区民センター(03-3260-3677)
 都営地下鉄大江戸線牛込神楽坂駅真上

今月5月17日、エベレスト登頂を果たした山田淳(あつし)さんは、23歳と9日。七大陸最高峰最年少登頂記録を更新した日でした。8300mのテントから、6時間弱のハイ・スピードでピークを踏んだあと、なんと山頂でパソコンを操作したとか。

その9日後、山田さんを師と仰ぐ斎藤豊(30)・真理(29)夫妻がノースコルに立ちました。夫妻の山行は、「エコ弁当コンクール」に優勝した賞品だったというのが、なんともユニーク。大陸最高峰を7つのオニギリで表現した作品が評価されての受賞でした。

なんでオニギリがエベレストにつながるのか? そもそもそのコンクールの正体は? すべては会場で明らかに。山田さんと斎藤夫妻の握った栄冠のヒミツをお楽しみに!


通信費(2000円)払い込みは郵便振替または報告会の受付でどうぞ
郵便振替 00100-5-115188/加入者名 地平線会議(手数料が70円 かかります)


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