●地平線通信236より
先月の報告会から・236
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カイラスの渦巻
安東浩正
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99.6.25(金) アジア会館
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◆真冬のチベットを中国製のMTB「天涯万里号」で挑んだ安東浩正さん。会場に入ると、チベットの数々の名山と宇宙色の晴天をバックに、さわやかに微笑む好青年の写真がたくさん飾られていた。どれも素晴らしい写真ばかり。「誰でもチベットに行けばこんな写真はとれますよ」と彼は言うけれど、たった独りで真冬の雪深い細道を自転車で挑んでこそのシャッターチャンスなのだ。
◆旅好きの青年が中国雲南省の昆明に語学留学。きっかけはタイ山岳民族の少女の絵葉書。たった一枚の写真から少数民族に惹かれ、少数民族が多い雲南省を選んだ。学生らしく冬休みを利用しての冒険。2回に分けて世界の屋根・東西チベットのダートロードを数千キロ、中国製の重量級のMTBだけを道連れに単独行に挑んだ。
◆安藤さんが語るチベットの山々は少数民族の美少女のように表情豊かで、彼の山への愛情と畏敬の念がにじみ出ている。「海抜が高く、ふと気がつくと周りに木がないんですよ。見上げて気づいた宇宙みたいな青い空に涙が出てきました。」土と雲と空のシンプルな世界に包まれ彼の心もどんどんピュアになっていく。
◆自転車は前にしか進めない乗物。だから、サイクリストの彼は「人の足跡があるなら、自転車をかつげば行ける」と、とにかく前進。峠を越え、そして下る。彼の足跡と細い車輪の跡しかない道。高山病と戦いながら、ひたすら彼は進む。延々と続くつづらおりの山道。道を作った人もすごいけれど、その道を進む彼もすごい。自転車で行くのはつらいけれど、未踏峰のかっこいい山を見ながら自分で登頂ルートを考えるのは楽しい、と彼は言う。どんな難局も楽しいことを考えて乗り越えてしまう底力。チベットの聖なる山々も彼の不屈の精神力に敬意を表して、その荘厳な姿を見せたのだろう。峰はどこまでも高く連なり、湖はどこまでも深い紺碧の聖地チベット。厳しい自然と、時折出会う心やさしい人々。彼は確かにチベットに受け入れられ、愛されたのだ。
◆大自然だけでなく、時には公安も彼の行く手を阻もうとする。「話せばわかる」と素直に罰金を払えば旅行会社の料金より安上がり、と彼は屈託なく笑い、やっぱり前に進んで行く。大理の町のおなじみの食堂でカツ丼を食し、無事、昆明の学生寮に到着。ひとまずチベット巡礼の旅は幕を閉じた。しかし、彼の冒険はまだまだ続くのだ。彼は常に前進するサイクリストなのだから。
◆報告会は時間切れになってしまったけれど、安東浩正著「チベットの白き道」に報告会の内容も盛り込まれてます。濃密で詩情豊かな彼の冒険が淡々とつづられた名著です。ぜひご購読あれ。[AD修行でよれよれの山本千夏]
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