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●地平線通信232より
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片山忍 |
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●100マイル(160km)を馬で走り抜く競技、「エンデュランス」に日本選手として初参加した片山忍さんに、周りの人を巻き込む、大きな力のようなものを感じた。ただし、片山さんのパワーは、一人突き進むだけのものではない。馬の体調・性格などを考えながらレースを進める細やかさの上に成り立っている。
●エンデュランスという競技は、100マイル(160km)を24時間以内に1頭の馬・1人の騎乗者で走るものだ。全行程を5つの区間(レグ)に区切り、各レグ通過時と終了後に獣医による馬の体調検査(ベットチェック)がある。そこで、「この馬がこれ以上走るのは危険」と診断されるとそこで失権となる。
●今年の1月、その世界選手権がアラブ首長国連邦で行われた。馬を愛する王族が参加チーム全員の費用を全額負担し、37カ国を誘致したという。何と総額20億円にも及んだらしい。こんなお金持ちって本当にいるんだなあ、と感心してしまう。レースはスタート前の準備から、始まる。暑さ対策として馬の毛を刈ってやったり、足慣らし、獣医とのコミュニケーション、それに重量調整もある。
ルールでは馬1頭に対し最低75kgの重さは乗せねばならない。鞍などの馬具が大体10kgなので、体重65kgの人が乗るのが丁度いい。仮に、50kgの人なら15kgの重りをつけることになる計算だ。「私は何も乗せる必要はないんですけどね。」と30かばの片山さん。自分の年齢や体重をさらっと口にしてしまう女性のカッコ良さ。…憧れます。
●完走目指してマイペースで走り続けた。馬の心拍数を測定する計器をチェックしながら、150くらいに保つ。第4レグ後のベットチェックでピンチが訪れた。馬が片方の脚をひきずっている、と指摘され、ドクターストップの恐れが出てきたのだ。長い協議の結果、ゆっくり行くことを条件になんとか獣医の許可がおりた。が、途中でやはり馬の調子がおかしいことに気付いた片山さんは、馬から降りてゆっくり歩き、ゴール。やはり最後のベットチェックでひっかかり、完走とはいかなかった。しかし、約束通り馬をいたわりながらゴールしたことが評価された。
●馬は賢い、馬は気持ちが通じる、ということはよく耳にする。12歳のころから馬に乗っている片山さんとは比較にならないが、私自身、アメリカとモンゴルで馬に乗ったことがある。初めは「人間は人間」「馬は馬」と完全に分けて考えていたが、生活を共にしていくうちに、その境界があいまいになってきた記憶がある。確かに私は人間で手綱を持っていて、こっちは馬だけど、それが何だ、というような。日本人は馬と一番遠い民族、という。
確かに、日本で馬と接する機会は少ない。乗馬というとやはり、お金持ち、お嬢様といったイメージがある。人と馬の関係って、実は誰にとってもすばらしいことなのに。「乗馬クラブで短時間高いお金を払って乗るだけでなく、馬の世話だけでもできたらいいのに」という片山さんの言葉に肯いてしまった。今からなら、エンデュランスの日本代表になれるかもしれない!?
●エンデュランスは個人競技と集団競技の両方を併せ持っているところが魅力の1つなのではないだろうか。馬と人間が一緒になって限界に挑戦する。限界に挑むことは、生きる可能性を広げることだ。その姿に我々は、生命として共感するのではないか、と感じた。[井田ひろみ(モンゴルをテーマとする地平線会議の新人。大学3年生)]
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