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宮下尚之 |
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◆ナイロビを基点に、ウガンダ・ザイール・ルワンダ・ブルンジの国境地帯の森でマウンテンゴリラとローランドゴリラに会い、タンザニアの乾燥林ではチンパンジーの群れをウォッチング。それから、人類最古の足跡が発見されたオルバドイ渓谷を経てナイロビに戻った。
◆水蒸気に包まれたような森の中に生きるゴリラたちは、ストイックで思慮深げに見えた。雨季と乾季がはっきりしているところに住むチンパンジーは、集団を組んで騒がしく、欲望丸出しのその姿に、人間にぐっと近いものを感じさせられた。森を出るとサバンナが広がり、その向こうに近代的なナイロビの街並みがあった。この旅を通して宮下さんは「ああ、人類はこんな具合に少しずつ森の奥から出て、町を作っていったのか」と思い至ったという。
◆類人猿に対する興味はこれに尽きず、キツネザルを見にマダガスカル島へ、さらにはオランウータンに会いに東南アジアのスマトラ島に赴いた。
◆そのうちに、これらの命を育んできたジャングルそのものと、そこに降り注ぎ、そこから流れ出す水へと、宮下さんの関心は向かっていく。こうして、ボルネオ島のバラム川を、源流から海へとファルトボートで下る「ジャングルに落ちた一滴の水の旅」計画が生まれた。「熱帯雨林の破壊が進んでいると盛んに言われているが、本当のところはどうなのだろう」。それを確認するための旅だった。
◆23歳からの旅立ちは30歳頃に至る青春放浪の体験のうち、「類人猿」と「熱帯の川」を巡る二つの旅を中心とした今回の報告を、ある「実験旅行」の報告として聞いた。知識として定着してしまっている「地球観」を、自分の体を使って敢えて意識的に再獲得しようとする「実験」だ。貯えた知識は決してゼロには戻せない。私たちはそれを頑張って押え込み、全身を触覚にして耳を澄ませなければ、この星の本当の声は聞こえない。そうは思っても、「地球○○問題」を知るために、つい解説本なぞを広げてしまう自分に苦笑する。[チャリンコ族・熊沢正子]
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