97年8月の地平線報告会レポート




8月の報告会から
アムール河の岸辺で世紀末中国を想う
森田靖郎
1997.8.29(金)/アジア会館

◆この日の森田さんの報告は、2部構成。第1話は、香港と天安門にまつわる、北京政府舞台裏のキナ臭い権力闘争の裏話。「香港返還のプロセスの一つが、天安門事件のキッカケとなったのではないか」との疑いを持った森田さんは、その経緯を知る人物、許家屯に執拗に食い下がる。返還に不安を持つ香港財界人の懐柔のため、とう小平の指示で新華社香港支社長として送り込まれながら、後に米国に亡命した許家屯。その彼の元を何度も訪ね、ついに核心に迫る証言を引き出す。様々な思惑を秘めた権力者たちが「歴史」という巨大な廻り舞台を動かし、同時に自分自身もその舞台の上で踊らされてしまう。そんな彼らの、ビリヤードゲームにも似た動きと因果応報が、森田さんの謎解きから浮かび上がってくる。

◆第2部は一転して、皇帝魚(チョウザメ)をルアーで釣る、というのどかなお話。7mの記録も残るこの巨大魚は、時には犬や猫も喰うと云う。そこで森田さんは、密かに日本やスコットランドでルアーの腕を磨き、80kgまで大丈夫な竿、ネズミやカエルのルアーなどを携えて、中・ロ国境を流れる黒龍江に乗り込んだ。そして、「皇帝魚がかかる感覚だけを信じて、5000回、いや8000回は投げた」 ミノーやワームなど、ルアーもいろいろ変えてみた。しかし、結果は惨敗。原因は「技術不足、魚の生態研究不足、そして黒龍河が魚の棲めない河になっていたこと」だった。地元でも、網や仕掛を使って年に1匹獲れるか獲れないか。「透明度は5cmくらい」という汚染では、そもそもルアーが見えないのだ。

◆もともと、「人格形成になればいいや、と思いながら始めた」という森田さんのルアー。黙々と投げ続ける姿は、最初は「あんなもので釣れるか!」と冷笑していた現地の人々の反応も変えた。「あなたの釣りの姿を見て、私たちは色々教えられた。あなたにこれをぜひ差し上げたい」 そう云って、帰り際、釣りの指南役の尤金玉(ヨー・キンギョク)さんから渡されたのは、魚の皮を材料にした伝統の衣服だった。今では全く作られず、贈られたのは娘さんが嫁入りしたときの貴重な品だという。河底の貝も心を動かされたのか、ワームに巨大な二枚貝が10コ前後も喰い付くという、エビ鯛ならぬルアーで貝のオマケもついた。

◆報告会は、終始、森田さんの淡々とした口調で続いた。いつもの、会場の疑わしそうな反応に「いや、これはホントの話」「ホントですよ、ホント!」を連発する『長老』諸氏の報告に馴染んできた身には、その静かながらジワ〜ッとくる説得力が印象的な報告会だった。皆さんも、ルアーをお始めになれば?[地平線臨時記録係 ミスターX]

※「とうしょうへい」の「とう」がJISになかったので、ここでは表示できませんでした。地平線通信では、2つの文字を合成して作りました。




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