2006年1月の地平線報告会レポート




●地平線通信315より

先月の報告会から

近いけど遠いけど近い東アジア走破行

賀曽利隆

2006.1.27 榎町地域センター

★ライブの魅力★
たまには会場整備でも手伝おうかな、と1時間早めに行ったら、問題が。報告者・カソリさんのデジ写真がPCに「入っていかない」という。ただし、ご本人は「写真がなくても話せますから…」と、満面の笑顔。同行した内蒙古出身の植物生態学研究者・ナチン氏が、PCを駆使して、カソリ氏選択の写真をダウンロードする。傍らで120枚ほどのスライドをセットする私は枚数が気になる。報告会、って何十時間あるんだっけ?しかし、その夜の2時間半のライブで、私たちはこのすべての写真を見、4枚の地図資料を楽しく読んだのだった。この充実感は、ライブでしか味わえない魅力。遠方の皆様、また様々な理由で参加できなかった皆様、すみません。報告会は、やはり、ライブ。06年初の会がカソリさんでよかった。参加できた私は、幸せを感じます。

★想いは繋がっていく★
カソリさんは、バイクで世界を走り、様々なことを人や世間に伝える「バイクジャーナリスト」。今回は、00年からの7つの旅と、07年の北朝鮮一周予定コースの報告だった。全ての旅の「きっかけ」を覚えていて、その「きっかけ」を感じた時と同じテンションで伝えてくれる。これが「カソリ魅力その1」だ。ユーラシア大陸横断の旅は、サハリン縦断の旅の途中、間宮海峡浴をして「この海峡を越えて行くと!」と心に思ったのがきっかけ。北朝鮮入りは韓国一周の時、金剛山が海にうつる、「海金剛」の風景に「心臓が震えた」のがはじまり。中国側のロシア、北朝鮮の国境地域を丹念に走る旅は、たまたま寄港したロシアの田舎港ザルビノで「ここはどこだ」と地図で探し、「(露・中・北朝鮮)三国国境に近い」ということを見つけ狂喜したことから…と。まるで、今、そこにいるかのように感動して話してくれる。今まで、何回となく話されているだろうに。この感動のエネルギーの量には驚嘆する。

★想いは実現する★
北朝鮮走行は、BMWの新車を与えられ、警察に管理され、沿道にも警官が立ち、写真も自由に撮れない状態での旅だった。一日走行距離80キロ、バイク乗りにすると「止まっているも同然」のコントロールの中でもカソリさんは風呂に入ったり、山に登ったり、楽しくすごしたようだ。「すべてを楽しむ」のが「カソリ魅力その2」。そして、来年に向けて、着々とすすめる北朝鮮一周の計画を地図つきで報告、「(強く、長く)想っていると、実現するんです」と言いきる。しかし、いうまでもないことだけど、カソリさんは座って瞑想しているだけではもちろん、ない。フル回転で動きながら、様々に調べながら、さらに人に伝えながら、想っている。巻き込まれ、エネルギーをもらった人や、カソリパワーに感応した人が次の旅をもってくる。01年の北朝鮮の旅の実現は、韓国の招聘者が、カソリパワーに感応した結果だった。人に伝える、ということって大事だな、と実感する話だった。

★「峠のカソリ」「岬のカソリ」★
カソリさんにはこだわりがある。分水嶺をこえる、という「峠越え」や、一番端っこの「岬に立つ」ことだ。韓国一周では、韓国の本土のそれぞれ最南端、最北端、最西端、最東端を丹念にまわっている。その写真は、時によるとただの砂浜だったりする。日本のように碑などたっていない。GPSでの自力での確認のみだ。岬、という言葉についての薀蓄も出た。「御サキ」であり、日本だったら神社があるところだ、だから日本ではほとんどの岬や半島に名前がついている、しかし他では、どんなに大きくても岬に名前がないことがある。思想が違うからだ…、とか、峠の漢字は日本でしか実感できない、日本だと峠を越えれば下るのが当たり前だが、他だと、まだ、それから延々と登ったり下ったりするのが普通だったりもするから…などなど。行動者の薀蓄は面白い。言葉に動きが出る。「食のカソリ」その他は今回は多少の写真での紹介におわり、また機会をもつそうだ。

★まだまだこれから★
昨年、喘息になり死ぬ思いをしたカソリさん。この報告会の打ち上げがアルコール解禁の夜(自称)だった。「まだまだ、これから」という報告会の最後の言葉が、重く聞こえた。サハリンの旅の途中で偶然あった北極海でいなくなった冒険家の顔が、「すでに旅人でなかった」とさびしそうに言うカソリさん。関わる方が多いだけに、悲しいことも多いだろう。しかし、まだまだ、そばによるとヤケドしそうに沸騰している血をもつカソリさん。「熱さ」は「カソリ魅力その3<最重要>」。この「熱さ」があるかぎり、大丈夫!今回カソリライブを見逃した方は、ぜひ次の機会には会場でお会いしましょう! (3月にはアラスカとキューバに行く僻地系添乗員・片山忍 日本の伝統芸能「狂言」のお稽古も復活)
★報告会参加者に行程ラインを書き込んだ7枚の手作りの地図が配布された。この日のテーマとなった2000年から2005年にかけての行動が、そこから浮かび上がってくるので記録として添付する。(E)
? 00年8月8日〜8月17日 サハリン縦断(1085キロ)
? 00年9月3日〜9月18日 韓国一周(3150キロ)
? 01年5月31日〜6月9日 ソウル−北朝鮮(750キロ)
? 02年6月26日〜8月15日 ユーラシア大陸横断(16000キロ)
? 03年9月25日〜10月4日 中国・北朝鮮国境行(2600キロ)
? 04年9月21日〜10月19日 中国東北部(旧満州 6216キロ)
? 05年10月9日〜10月15日 韓国縦断(1178キロ)

清貧こそソロツーリング

 賀曽利隆氏は、全国に熱烈な「カソリック教徒」を持つことで知られる。1月の報告会にも教徒、いや京都からそういうひとり、帰山(かえりやま)和明さんが日帰りで駆けつけた。37才のカソリ追っかけ人に、感想を書いてもらった。(E)

 私は現在フリーター。賀曽利さんの“追っかけ”歴はまだまだ15年くらいです。賀曽利さんと言えば、常に世界のどこかで走り続けていらっしゃるというイメージ。報告会を聞きに東京まで日帰りで往復。朝9時過ぎ京都駅を新幹線で発ち、正午前品川着。知り合いが店長をしている埼玉県熊谷のバイク屋さんまで往復してから報告会の会場に早めに着きました。

◆氏を初めて知ったのは、昭和61年秋のバイク雑誌「アウトライダー」でのインタビューでです。「峠越え」の話でした。その個性に強烈にひかれた私は、以後追っかけ人になりました。平成4年には山梨方面でのツーリングを一緒に走らせてもらい、そのパワーを思い知りました。賀曽利さんは林道での走りがとてもスマートで、それでいて速いんです。温泉での行動も素早く、温泉ハシゴの真髄を垣間見ました。

◆カソリさんの著書を28冊持っています。(ただし、何故か実は殆ど読破できていません)。カソリさんの印象を一口で言えば「人を明るくさせるプロフェッショナル」でしょうか。ほんとに生きる元気を分けてもらう、という感じです。そして、旅することの素晴らしさを教えてもらいました。定期的な日本一周を賀曽利さんは計画されました。私には到底無理としてもせめて休みの日ぐらいはツーリングしたい。そのためには、最低限のお金があればよい。「清貧こそソロツーリング」。一人旅というのは非日常、自分の全感覚、全知識を総動員し行動するという総合的な人間の能力を問われるものであると思います。賀曽利さん曰く「孤独と闘い、孤独を楽しむ。そして、行く先々のひととのふれあいを大切にすればソロツーリングも10倍も楽しくなる!」「郷に入らば郷に従え」=「一番面白い旅は、現地食を喰うこと」・生涯旅人、もっと自由に・もっと遠くへ。

◆温泉のカソリ、峠のカソリ、食文化研究家のカソリ、美人評論家のカソリ、…さらに肩書きは増えていくことでしょう。人間、その気になれば、なんだってできる。夢に向かって、突き進んでいる時は、自分の持っている力以上のものが出てくる。そんなことを感じながら、22時50分発の夜行バスで新宿を出ました。二次会も、喉から手が出るほど行きたかったのですが、翌日は朝から勤務だったので。

◆最後に、もしスペースがありましたら、14年前の「オートバイ」別冊 のあとがきにカソリさんが書いたことを引用させてください。

 「ツーリングの毎日ほど、心をときめかせる日々があるだろうか…。一日として、同じ日はない。ツーリングには、判で押したような、決りきった一日はない。バイクを走らせる日々は、朝起きてから夜寝るまでが、ドラマの連続だ。予期しないことが、次々に起こる。自作自演のドラマを目の前で見ているようだ。いや、つくりごとのドラマなんかより、よっぽどおもしろい。行った先々では、大勢の人たちと心をかよいあわせることができる。見ず知らずの人たちと…。ライダー同士の出会いも多い。人間って、こんなにもすばらしいものだったのか…ということが、よくわかる。いろいろな生き方をした、いろいろな人たちに出会うと知らず知らずのうちに、生きる自信が湧いてくる。冷たい雨に打たれながら走る辛さ…、一晩の宿がみつけられずにウロウロする時の惨めさ…、山の端を赤々と染めている夕陽が落ちていく時の悲しさ…、冷え冷えとした大地の上でシュラフにくるまり、寒さに震えながら眠る時の寂しさ…。でも、それがいいんだ。雨があがり、陽が射して来た時の喜び。やわらかな布団の上でゆっくり眠れるありがたさ。あたり一面を金色に染め、朝陽を見る瞬間の気力の充実。旅先で出会った人と心ゆくまで話した時の満ちたりた気持ち。辛さや惨めさ、悲しさ、寂しさを乗り越えながらバイクを走らせていくと、いつのまにか自分が強くなっている。それも、ねばりけのあるしなやかな強さだ。他人の喜びも、悲しみもわかってくる。ツーリングに旅立って、自分の心が変わったのだ。自分の心が、いつのまにかやわらかくなっていることに気がつく。心底の欲望が物欲だって?名誉欲だって?そんなのウソだ、人間の限りない欲望といったら、遠くに行ってみたいという欲望、それしかないよ、と、いいたくなる。このままずっとバイクで走っていきたい!」

 …私は、この文章を読む度に、目頭が熱くなります。(帰山和明 2月11日京都発メール)


to Home to Hokokukai
Jump to Home
Top of this Section