2005年6月の地平線報告会レポート



●地平線通信308より
先月の報告会から
足元にピース!
桃井和馬
2005. 6. 24(金) 榎町地域センター

 梅雨の中休みで真夏のよう!冬のオーストラリアから戻ったばかりで、こたえる暑さだわぁ〜、と思いながらも高田馬場から歩いて会場に向かう。ちょうど今回の報告者である桃井和馬さんが入念な打ち合わせをされていた。スクリーンに広がる写真はひょっとしてギアナ高地?と、期待を膨らませながら開会を待つが、まさか、レポートを担当する事になるとは…。

◆桃井さんは地平線会議とは大学生の頃からのお付き合いで、単独の報告者としては15年ぶりの登場という。恵谷治さんなど厳しい先輩たちから「世界で一番遠いところへ行け!」と言われたのがきっかけで、各国の若者を集めて挑戦と冒険の心を育てようというイギリスの「オペレーション・ローリー」に応募し見事合格。イギリスで1ヶ月トレーニングをして3か月間、帆船に乗って大西洋を渡るという体験をする。

◆トビウオが甲板にキラリと飛び跳ねるところやイルカの群れなどその時撮った写真が友達から好評を博したことに勇気づけられ、フォトジャーナリストの道に。1980年代、フィリピンや中南米を訪れる。紛争地帯を報道カメラマンとして駆け巡る日々。そこでの写真は、破壊、死体、焼け跡など、今の桃井氏さんの写真とは違って誰が見てもひと目で戦場と分かるものが多かったようだ。

◆報告会の中で桃井さんは写真の世界が斜陽化してきていると指摘した。たとえば、撮影する側にとっては重要な雑誌1ページの写真の値段は、1960年代、ベトナム戦争時代からほとんど変わっていないそうだ。「見る側の想像力の低下も、斜陽に拍車をかけている」と、マドリッドの美術館でピカソの「ゲルニカ」「泣く女」を観た時の印象を例としてあげた。あのキュビズムの絵は、ぱっと観ただけでは何を表現しているか分かりにくい。実は、1937年制作のこの作品はスペイン、バスク地方をナチス・ドイツが爆撃し、多くの罪のない人々が犠牲になったことを知ったピカソが、暴力の不条理や悲惨さ、悲しみ、平和を願う気持ちを一気に描き上げたものだ。

◆このことは写真にも通じる。写真にはうつっていない、その中に潜む物や隠されたいろんな思いを写真家は表現し、観る者は想像力を働かせてその写真を感じることが出来たら…。スクリーンに、写真が映し出される。サラエボの鉄筋コンクリートの建物の窓から望む町の風景。そこはスナイパーが動くものを狙い撃ちするための窓だった。また、3つの片方だけの靴の写真。戦争で亡くなった人達のものだ。異なるサイズ、形からその持ち主の人生を感じる。そして、地面で寝るオラウータン。本来なら木の上で寝る動物が、人間に飼われるうち、自分を人間だと思いこんで、地面で横になっている…。

◆桃井さんの写真が事実を報告するだけに終わらず、その奥に潜む感情、意味、物語などが織り込められていく中で、「戦場カメラマン」の立ち位置は、変わっていった。戦争や紛争が終結して何年も経った後、その国の現状を記録したいと思うように。ことしも、3月から4月末まで40日間、アフリカ取材に飛びまわった。その時、ルワンダで撮った1枚の写真がある。扉のしまった家の写真。100万の民が殺されたあの大虐殺から11年経ったルワンダは援助も豊富で民族差別もなくなり、今は平和だと人は言う。しかし、小さな村の畑で村人が作業中も家の戸はしっかり錠をかける。戦争後、隣人を信じられなくなってしまったからだ。閉じられたドアは「人間不信」の象徴だった。

◆一方、桃井さんは、戦争が起こる原因を調査し、探っていくうちに地球環境について考えるようになったという。ルワンダは山に覆われた国で、人口が増えるにともない山を切り崩し、畑を作ってきたのはいいのだけれど、棚田などを作らず、突貫工事をしたために自然崩壊が起きた後、食料に困るようになり紛争が起こった。戦争と環境問題は表裏一体。アマゾンの森も空から見ると森林が減りボロボロだそうだ

◆もうひとつ。桃井さんは写真で世界を表現するだけでなく、「身のまわりの世界」を大事にもしている、と語った。ある年、アリゾナに住むホピ族の長老に「あなたは、いまここにいるが、家族はどうしているのか」と聞かれて言葉に詰まった。「世界平和を唱えるのなら、まず家族を大切に、身の回りの地域を大切にすることだ」。以後、3つの視点をもって活動するようになる。身の回りの視点(1日を愛し‐普通の人のレベル)・社会レベルの視点(1年を憂い‐政治家的レベル)・地球レベルの視点(1000年後に思いを馳せる‐グリーンピースなど)。

◆家族を大切に思う桃井氏は地域社会とつながろうと、住まいの多摩地区で地域活動を始めている。その一つとしてPPT(ピース・プロジェクト・タマ)を立ち上げた。会員たちがお金を出し合い、そのお金で地域から1人を「ピースボート」に派遣しようという試みだが、私だったら真っ先に「行きたい!」と手を上げるだろうに意外にも最初はなかなか手を上げる人がいなかったようだ。長期のお休みが取れない日本らしい話でした。

◆コミュニケーションのとれた地域では、無駄な争いは起こらない。桃井さん曰く、「自分が取材で日本にいない時も、そうしておけば地域の人達が自分の家族を見守ってくれますしね!」。そのピースボートの講師としてヨルダンまで乗船し、数日前に帰国したばかり。ピースボートの面白さは外国を見聞すると言うことより、閉鎖的な空間に、ある覚悟(長期休む、お金を貯めるなど)をした上で全国から集まった人達自身が面白いのだとおっしゃっていた。

◆前半の終わりに流れたギアナ高地の映像や、後半にスクリーンに映し出された写真は素晴らしかった。後半の写真はタンザニアのンゴロンゴロ〜NYのグラウンドゼロ(この2枚の写真で400万年の時の流れを想像してみる)、そのほかにも沢山の国の人や風景が意図的に並べられ、映し出されていった。撮った人の意図を感じ、観る側は想像力を膨らませて…。

◆8月6日まで品川にある、キヤノンギャラリーSで開催中の地球環境写真展「未来の地球へ!」に行かれるともっと沢山の写真を観てみると、一人一人違った感想があるかもしれませんね?

<追伸・7月5日の写真展初日に行って来ました。ゆったりしたスペースでとってもよかった。地球誕生から生命誕生、世界の発展、破壊、再生みたいな動き。自然体の子供達の目の表情に惹かれました>
(旅・自然が好きな時遊人、でも株も大好き?な渡辺泰栄)


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