2004年9月の地平線報告会レポート



●地平線通信299より
先月の報告会から(報告会レポート・302)
チヘイセン学のススメ
三輪主彦
2004.9.24(金) 新宿区榎町地域センター

●第1回目から、ちょうど四半世紀の記念すべき報告会。みんなの前に立つのはこの人しかいない、と云う訳で、1回目『アナトリア高原から』の報告者三輪主彦さんが本日の語り部だ。奇しくも今日(24日)が誕生日。還暦のお祝いが『みわ塾』の塾生一同から手渡され、華やかなスタートとなった。「25年前、まだ生まれてなかった人は?」に客席で挙がった手は5+1本。プラス1は、お孫さん涼月(すずか)ちゃんを抱いた、長女涼子さんの代返だった。

●節目の報告会、そして学の字を背負った重い?タイトル、受付けで渡された『地平線学 入門編』の16章・44ページもある印刷物。一体どんな話が始まるのか、と固唾を飲んで待っていると、「60歳の記念に60章書こうと思ったけど16章しか書けませんでした。17章以降は400回までに‥」と、人をケムリに巻くことにかけては地平線随一の、三輪さんらしい肩すかし。なんとなく会場の緊張感もほぐれたところで、いつものミワトークが始まった。

●まずは還暦を迎えての感想。かねてより「マイナスも進歩のうち」と捉え、「ミジメな老後」を心待ちにしていた三輪さんのこと。定年前に退職して収入がない、60歳の年金支給まで段々貯蓄が減ってゆく、という境遇は、「ない」を楽しむ格好のチャンスだったようだ。「若い時に旅をしないと、歳を取ってからの物語がない」 走り旅をしていた時、八雲の商人宿で旅商いの人から聞いたという言葉に続いて、話は一気に25年の歳月を飛び越えた。「1回目の時は35歳でした。安東くん、いま35歳? ボクにもそんな頃あったな〜」「地平線が始まった79年は、イランで革命、イラクではフセインが出てきた。ロシアはアフガンに侵攻した。今の騒ぎのターニングポイントが、その頃だったんじゃないか」そして、第1回報告会の裏話、ガリ版印刷で作っていた地平線通信の原点「はがき通信」の苦心談、25年前のトルコ留学と再訪のエピソードと続き、暦の解説から、巣鴨の人気干支みやげ「トルマリン入り赤パンツ」に話題はジャンプ。その現物が会場で披露された。「申は、病気が去る、なんですよ。こじ付けはこじ付けているうちに定着してくる」のだそうだ。

●ここでテーマは一転し、彼方にゲルの見えるモンゴルの草原の写真を背にして、地平線って何だの話になる。「地平線は遠いと思っていても、案外近いんですよ。あのゲルまで4kmから4.5kmです。でも、そこまで行くと、またその先に地平線があるんです」地平線とは目の高さなのだと云う。視点が高くなれば遠くまで見渡せるのは誰でも知っているけれど、その逆に「寝っ転がればすぐそこが地平線になる」のは、云われなければ気が付かない。

●休憩のあとの後半の部は、向後元彦さんに誘われて通っているというミャンマーの様子が、のどかな写真と共に紹介された。イラワジ河のデルタ地帯では新しい土地がどんどん生まれているが、それは上流域での伐採が進んで土砂が流れ出した結果だ。経済制裁のあおりで、マングローブも切られてヤンゴンへ送られ燃料にされる。そんな厳しい側面はあるものの、依然として人々はノンビリと穏やかに暮らしている。その愛すべきスローライフに三輪さんもすっかり惚れ込んだらしく、「民族衣装のロンジー(巻きスカート)は、すぐにほどけるので常に片手で押えていなければならないけど、その効率の悪さがぼくは好きです」と語る顔は、どことなく夢見心地だった。

●ミャンマーのスローライフあたりから話題は少し哲学色を帯び、「私たちは何処から来たのか。私たちは誰か。私たちは何処へ行くのか」という問いに続いて、突然、錯視・錯覚を誘うさまざまな絵がスクリーンに映し出された。今度は何が始まるの? そんな会場の軽い戸惑いをヨソに、「右と左はどっちが長いですか?」「マル印は左右に動いてる? それとも上下?」と画面は進む。そして最後にエッシャーの有名な騙し絵が現れた。登っているはずなのに、実は同じところをグルグル回るだけの不思議な階段。「これって江本さんの生活じゃないの?」という声が上がって、会場がドッと沸く。はは〜ん、三輪さん、これが云いたかったのかな。世界はこの絵そのままだ。その中で、ぼくたちは常識や思い込みに捕われ、そいつに尻を叩かれてセッセと階段を駆け上がってるだけなんだよ、と。それで「常識外し」の謎かけが色々出てきたんだな。

●「地平近くの満月は大きく見えるけど、五円玉の穴に嵌ってしまう。それほど小さいんですよ。でもぼくは、お盆のように見える方が本当ではないかと思うんです。そんな私的感覚や私的ローカル単位でものを見る。それが地平線的なのではないか。ここまで300回。そこからまた、別の地平を眺めながら行けばいいのではないかなぁ」記念の回とはいえ、いつもの「み話術」で終始リラックスモードの報告会は、そんな言葉で締め括られた。[ヒロベイ、こと久島弘


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