2003年11月の地平線報告会レポート
●地平線通信289より
先月の報告会から(報告会レポート・291)
宙(そら)からみたマッケンジー河
多胡光純
2003.11.28(金) 新宿区榎町地域センター
◆高い所から見た景色に感動することは誰にでも経験があると思う。私もそういう高みからの風景が好きだ。旅の最中、小高い場所を見つけると登りたくなり、同じ風景なのにこんなにも違う事に気がつく。もっと上がればもっと感動する景色がひろがるのだろうが、私の力では限界がある。でも、限界を超えてふわり、空まで飛んでしまったのが今回の報告者、多胡光純(たご・てるよし)さんだ。
◆報告会場には、ずしん、とでっかい扇風機のようなものが、鎮座していた。なんと、多胡さんが行動の手段とした「モーター・パラグライダー」そのものだった。重量27キロ、という。
◆極北の地、カナダ・マッケンジー川。そこに通ううち、多胡さんは、強い思いにかられた。「ここで、自分が立っている場所を空から見て、写真を撮りたい」
◆だが、極北はどこも平坦で山地が少ない。いろいろ考え抜いた末に到達した答えが、モーター・パラグライダーだった。背中にエンジンを背負った人間とパラグライダーの組み合わせで、数メートルの低空から2000メートル高度まで舞い上がれる。
◆さらに言えば、川での移動手段はカヤック。モーター・パラグライダーはカヤックに積む事ができるサイズまでコンパクトになる。
◆自分で2003年5月という出発日を決め、それまで集中して練習する。期間は9ヶ月。一人前になって飛べるまで1年はかかるというのだから、練習期間を短縮するのは根性ということなのか。でも、多胡さんに空を教えた師匠はちゃんと釘をさしている。空の世界は根性ではない、理論の世界だ。理論にあった行動をとらないと危険だ、と(私の多胡さんへの印象は、根性よりはどちらかと言えば理論の人だと感じる)。
◆マッケンジー川での最初のフライト。キャンプ地に着き、フライト準備もできた、いつでも飛べる。でもすぐに飛べなかった。離陸ポイントは狭い河原。周囲120キロは、人は住んでいない。川幅は平均4キロ。川の両側はどこまでも続く森。もし失敗して川に落ちればそのまま下流に流されてしまうだろう。森に降りられたとしても、対岸だったら、キャンプ地に戻ってくる方法がない‥。
◆さんざん練習してきたのに、現地に来てみたら、なんと3日間はまったく飛べなかった。そして4日目、ようやく初フライト、そして撮影。念願の「エア・フォトグラファー」になれた瞬間だった。
◆それからは、カヤックで前進しながらキャンプし、マッケンジー川上空で幾度ものフライトを実施。回数を重ね、慣れてくると薄暮時のフライトもこなした。日が沈んでしまい、真っ暗になったらキャンプ地を見つけられず、帰ってこられないのではないかと心配になるが、目印に大きなたき火をつけてあるし、時間も計算してあります、と平然と言われた。経験を重ねた自信が、そこにあった。
◆スクリーンに映し出される、天空からの極北の風景。さまざまな写真の中でも、足下を川が横切り、視線を上げていくとずっと森が続き、遠くにかすんだ地平線が見えるカット、これが平凡そうだけどとても気にっています、と何度も言う。いやいや、平凡なんて、とんでもない。こんな広がりのある景色は、地上では見る事ができない。どれも飛んだからこそ撮れた素晴らしい写真だ、と、こちらは思う。
◆多胡さんは「人の気配のない空間」を求めて世界を旅しているうちに極北に行き着いた。でも、まったく無人というわけではなく、たまにモーターボートに乗って地元の人が見物に来る。おまえは何をしているのだ、これはなんだ。と始まる。「ビッグ・ファン」−彼らがつけたモーターパラグライダーの名前だ。彼らに説明し、その場で飛んで、デジタルカメラで空撮した写真を見せるととても喜んでくれる、という。
◆彼らからはそのエリアの話を聞ける、たまには肉をお裾分けしてもらえることもある。森であり川だけだったのが、地元の人に出会い、彼らを知ると同じ景色でもその背後にある人を感じるようになり、空から見える大地が急に身近な存在になる、と多胡さんは言う。こうした交流をしながら9月まで行動を続けた。
◆ご両親を含め120人がつめかけた報告会は、大いに盛り上がった。カヤックとモーター・パラグライダーを独自のアイデアで取り入れた、エア・フォトグラファーの挑戦。危険を避けつつ、これからも世界を広げ、私たちに未知の風景を見せてほしい。[ツーリングライダー古山隆行]
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