2003年5月の地平線報告会レポート



●地平線通信283より
先月の報告会から(報告会レポート・285)
氷河のトンネル
小久保純子/丸中太郎
2003.5.30(金) 榎町区民センター

◆中高年のための若者語講座です。「フツーに」これは強意語。普通/特殊という概念とは無関係に使用します。「○○してみる」これは婉曲表現。しばしば敢えて言い切りの形で、試行というニュアンスのない文脈でも使います。練習です。「(洞口が小さく)入ろうという気が起きないので素通りしましたが」これを若者風に言うと「フツーに入る気しないんでぇ、素通りしてみる。みたいなカンジだったんですが」となります。繰り返して覚えましょう。

◆今回の報告者・小久保純子さんの口調は初めこそ真面目で硬かったが、調子が出るにつれ、おどけた若者言葉が混ざる。冒頭の若者語は小久保さんが報告に用いた表現だ。日本語の乱れと眉をひそめるなかれ、小久保さん自身の言葉でなければ小久保さんを活き活きと表現することはできない。小久保さんは報告の中で、我々は学生隊だから楽しめばいい、測量はさして重要ではないと屈託なく語る。責任だの、成果だのといった重厚な概念に囚われず、軽やかに自分を楽しむ。本人もそう意識してはいないかも知れないが、この人は自分を楽しむ事を通じて社会と向き合うという、新しい価値観・世界感覚の担い手だ。

◆今回は後半に早稲田隊のギアナ高地報告もあった。共に報告会を一回開くに足る内容だったが、情報がホットなうちにと敢えて一回に詰め込んだ。この早稲田隊は小久保さんの隊と好対照をなす正統派の運動部気質で、報告を行った丸中太郎さんの語りも質実剛健。こちらはOBの叱咤激励に応えるべく、探検部として成果を出すことを目指してギアナ高地へ飛んだ。

◆2人は共に豊富な写真と映像を用意していた。小久保さんの写真はアイスランド入りから町の様子、関わった人々、氷河への道のりと順序よく並べられ、旅の様子がよく伝わってくる。メインは何と言っても「ナショナルジオグラフィックで写真を見て憧れた」という、青い氷河洞の写真だろう。現実離れした氷の造形が青い空間に浮かび上がる。映像には氷河洞内にダイアモンドダストが発生した様子も映っている。この映像だけでも、ちょっと得した気分だ。

◆そんな美しい映像があるかと思えば、羊の群を見せた次に、木っ端微塵に粉砕されフライパンでこんがりと焼き上がった羊君の末路を見せてくれたりもする。誰かが彼らの探検の動機を「メルヘンチック」と表現したが、この剽軽な写真を見ると、小久保さんという人をメルヘンチックで片づけるわけにはいかなそうだ。そういえば写真全般に突き放したような、説明的な視点も感じられた。知的な一面もあって初めて撮れる写真に見えた。

◆一方の丸中さんは熱帯のジャングルからそそり立つテーブルマウンテンを披露するのだが、こちらの映像は行動者の視点に入り込む迫力の映像だ。彼らの目的はテーブルマウンテン内部を知るための未踏クレバスの地質調査、および「グアチャロ(鳴き叫ぶ者)」と呼ばれるアブラヨタカの一種がクレバス内に営巣しているとの未確認情報の確認だったが、懸垂下降してゆく彼らの周りを無数のグアチャロがけたたましい鳴き声をたてて飛びまわる様は、思わず自分がどこにいるのかを忘れて惹き込まれてしまう。クレバス底にはグアチャロが排泄した植物の種が玉砂利のように敷き詰められている。彼らはその更に奥まで危険を冒して分け入り、地質調査を敢行した。

◆希望者が店に入りきれないほど盛況の二次会で、まったくタイプの違う2人の報告者は楽しげに冒険の様子を語っていた。若手の報告にはベテランのそれには無い魅力がある。そのエネルギーを、今度はどんな形で見せてくれるのだろうか。今後、要注目である。[松尾直樹 自身、若手中の若手]


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