|
●地平線通信273より
|
互いに叱咤激励する会 河野兵市・順子 |
|
◆7月の報告会特別番外編は、北極から河野兵市さんに語っていただきました。もっとも一年程前に遭難して亡くなっているので、今回は特別にビデオメールという形で登場。先日「絆(きずな)、河野兵市の終わらない夢と旅」を河出書房新社から出版された順子夫人も同伴です。毎年地平線会議恒例の夏の納涼祭りの企画にぴったり、なんて書くと不謹慎だといわれそうですが、今回の報告会の趣旨は一周忌を悼もうというよりは、河野さんの偉業を讃えながらその意志に激励されよう、そして参加者達の酒の肴になってもらおうという魂胆であるので許してください、河野さん。
◆まずは秘蔵のビデオの数々が順子夫人のコメントを交えながら上映された。地元愛媛で放映された内容が多く、東京では見ることの出来なかった報道の数々が。次の北極ベースキャンプでスタッフによって撮影されたビデオは、多分本邦初公開。仲間内に気軽に話している雰囲気なので、カメラを意識してない自然な姿。尽きる事のない話題が実に内容が濃い。たとえばロウソクについて語りだすと、「電気と違って温かい」から始まり、最後には「そこには日本的なわび、さびがあるのだ」と物事を深くとらえる河野さん独自の世界が現れる。北極からの臨場感のある報告。本当に本人がそこにいて直接話しているかのようだ。
◆遭難前最後の補給フライトの際の映像で見える元気な河野さんには悲壮感のかけらも感じられない。補給中の機内でガツガツと飯をむさぼり食い、コーラをうまそうに飲みながら旅の報告をし、持ち前のサービス精神を発揮する姿には余裕すら感じられる。本当にこの数日後に亡くなってしまうのだろうか? 会場のみんなもそう感じたに違いない。
◆話変わって、順子夫人が本を出版した話。実は原稿持ち込みの企画であったという。これはすごい。いろいろな出版社に持ち込み、大手の河出書房新社で決まり、それを一周忌に間に合わせたというのだから、そのパワーは旦那を上回るものかもしれない。遭難時のマスコミ達の興味本位的取材では本当に伝えたい言葉を扱ってもらえなかった。その思いをこの本で達成したという。ルビつきで小学生でも読めるようにしてあるところに順子夫人のこの本へ託した思いを感じる。ちなみにおとうさん瓜二つだという息子の遼兵君は、この夏休み、サッカーでフランスに行っているそうです。
◆この報告会は、河野さんゆかりの人たち、その偉業に続こうという若者達まで様々な人たちに参加してもらう趣旨。後段では今までのことも今からのことも、全部ごちゃ混ぜにして話してもらった。まずはペルーから白根全さんのメールが読み上げられる。生命力が服を着て歩いていたという河野さんの地球というキャンパスでの活動に思いをよせる。埜口保男さんからは十数年前に一緒に登ったアンデスでのムボー的挑戦の登山の様子が暴露された。北磁極まで歩いた荻田泰永氏、チョモランマ登頂の後、北極点を視野にいれている上村博道氏。その他チベットのヤルツァンポー屈曲部探検にいれこむ早大OBの角幡唯介氏、中国の歴史的探検家、張騫(ちょうけん)に魅せられ、この夏ホータン川をカヤックで下るという都立大生、阿部朋恒氏など様々な事柄に挑戦中の若手のホープ達もその思いを熱く語った。
◆順子夫人は、家族に残してくれたもの、それは自分に正直に生きてきた事だといったが、それは、地平線のみんなにも残してくれたものだろう。[近日中に自転車でシベリア横断に向かう、安東浩正]
|
|